2022.10.17
命の絆No.77 アメリカ合衆国 シビル・ディフェンス ニューヨーク市消防局 補助消防隊
命の絆 消防ヘルメット
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。
時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が彼らを突き動かす。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。
「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。
命の絆No.77 アメリカ合衆国 シビル・ディフェンス ニューヨーク市消防局 補助消防隊
デトロイト・マシーン社 M1917型スチール製ヘルメット
1915年、第一次世界大戦下のドイツ帝国はツェッペリン硬式飛行船の夜間爆撃に始まり、R級の大型複葉爆撃機も動員して連合王国のグレートヤーマス、首都ロンドンなどに爆撃を続けた。この報せを脅威として受け止めたアメリカ合衆国は1916年8月29日、国防委員会において「各州および各地方レベルでの国防対策のための法人機関設置ならびに、この機関への参加の勧奨」を行った。やがて1939年9月に欧州で第二次世界大戦が勃発。ルーズベルト大統領は1941年5月20日に海岸線防衛のため各州の民間航空パイロットによる空中パトロールと、100万人のボランティア・シビル・ディフェンスメンバーに対し、空襲を受けた際の消火・救急、空襲後の消毒、配給食糧の対処、リサイクルおよびスパイ・破壊工作者対応訓練の実施を指令した。さらには同年日本時間12月8日、日本海軍によるハワイ・オアフ島の真珠湾およびフィリピン・クラークフィールドへの空襲により、シビル・ディフェンス活動は一気に本格的となった。
1942年、日本は大型潜水艦伊25に搭載した2人乗りの零式小型水上偵察機を極秘裏に洋上から発進させ、9月9日および9月29日にオレゴン州とカリフォルニア州の州境にあるシスキュー地域ブルッキングズ近くの森林に焼夷弾を投下して火災を発生させた。この対策としてアメリカ合衆国は陸軍第555空挺団メンバーから選抜して沿岸部森林火災消火部隊を編成し、オレゴン州、カリフォルニア州で対処させ、シビル・ディフェンスには鉄塔での森林火災監視にあたらせた。1944年冬には、「森林火災で敵国を撹乱させるべし」という考えのもと日本陸軍が開発・実行した「ふ」号作戦が開始された。これは直径10mのこうぞ紙(和紙)に水素ガスを充填して爆弾を吊り下げた気球爆弾で、冬に強まるジェット気流に乗せてアメリカ合衆国に到達させるため、太平洋側の千葉県一宮、茨城県大津、福島県勿来海岸の放発基地から4カ月間で9,600個が放たれた。アメリカ合衆国はこの気球爆弾について国民に知らせず、日本側でもその戦果は不詳のままだったが、戦後の資料によると361個が到着したものの積雪期だったためか、森林火災は小規模に終始したとのことだ。対日戦争とシビル・ディフェンスの関係がこの程度で済んだことは不幸中の幸いだったかもしれない。
なおシビル・ディフェンスの目的は、消防・救助・救急活動、公務員組織との一体的活動の構築、専門グループ化による細部活動計画樹立、探索犬ハンドラーの育成、1950年代(東西冷戦下)の対原子爆弾投下想定での避難計画推進、FEMAとの包括的な危機管理推進が挙げられる。ニューヨーク市の補助消防隊は登録者数5万5千人、当初はポンプ車300両、はしご車200両の配置を計画していたが、1954年末までに放水量毎分750ガロンのワード・ラ・フランス社製ポンプ車65両のみの実配置におわった。
紹介するのは1917年モデルのM1917ヘルメットだ。赤色に塗られた防弾機能を有する補助消防隊用の鉄かぶとは、ミシガン州のデトロイト・マシーン社が1940年から量産したスチール製で重さ1,050グラム。帽体正面にはシビル・ディフェンスのマークである紺色の円の中に白い三角形があり、さらにその三角形内に消防シンボルである赤いマルチーズクロスが描かれていて、一目で消防活動隊だと識別できる。帽体内は白塗りで、ハンモック、ライナー、あご紐のどれもが丈夫な木綿製だ。帽体内の後庇にはPROPERTY F.D.N.Yとプリントがあり「ニューヨーク市消防局財産」と明示されている。すでに廃番品となっているこのヘルメットは1984年2月21日、元シビル・ディフェンスメンバーのアントニオ・ミリオ氏から贈られた。日本との関係が複雑な時代を過ごしてきた貴重な品である。
災害現場で活動する隊員たちの姿で、ひときわ目を引く存在が「ヘルメット」である。
戦闘用の兜をルーツに持つヘルメットの目的は、衝撃から頭部を守り、直接的な負傷を防ぐことにあるが、国によりさまざまな特色を見せ、性能やそれにともなう形状、デザイン、用いられる素材は時代や環境とともに進化を遂げ続けている。消防で用いるヘルメットも、“災害”という敵から“消防士”という戦士を守るための“防具”であるといえる。
消防におけるヘルメットとは、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在である。災害現場では突如倒壊物が襲い掛かってきたり、足場の崩れ、転落の危険に晒される。もし頭を打ち意識を失えば、要救助者の生命は守れない。隊員自身もさらなる悲劇に見舞われないとも限らない。消防ヘルメット一つひとつにはストーリーが宿っている。世界の消防が使用した「ヘルメット」を通じ、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。
11|12 2022/FIRE RESCUE EMS vol.105