2022.4.11
【第10回 エッジ養生・ロープ保護】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
皆さんこんにちは。普段、ロープ(撚り、編み問わず)をつかって活動する際、どうやって「養生」していますか?今回はエッジ養生・ロープ保護についてお話しします。
毛布でロープが守れるか!?
消防に身を置く方であれば誰もが、ロープの保護のために毛布を使った経験があると思います。毛布はどのくらいロープを守ることができるのでしょうか?結論からいうと、ぶっちゃけ意味がありません。ロープを切断してしまうエッジというのは、ロープにとっては刃物と同じ存在です。もし刃物男が暴れている現場に出場するとして、皆さんは腹に毛布を巻いただけで安心して活動できますか?(僕はヤです)
以前、この話を持ち帰った受講生が、職場で実験をしてくれました。庁舎のベランダに垂らしたロープに65kg程度の隊員をぶら下げ、他の隊員がロープを左右に揺らして、切断までの回数を計測したものです。
コンクリート直当て | 10.5往復 |
---|---|
毛布1枚 | 11往復 |
毛布4枚 | 20往復 |
毛布1枚でたった0.5往復しか延命できなかったのは、個人的にも驚きでした。4枚重ねたとしても2倍程度しか延命できないわけです。ないよりはマシかもしれませんが…というレベルですね。前回も書きましたが、現場の建物や地物の方をロープから守る(養生する)ためには活用するべきだと思います。
付け加えておくと、力づくで10往復も擦らないとロープが切れないようなエッジは、正直なところそこまで鋭利ではありません。コンクリートのキレイな90度エッジであれば、2往復程度でロープが切断することもあります。
キャンバスシート、消防ホース
養生グッズとして、キャンバスシート(エッジパッド)と呼ばれる綿の布が販売されています。廃棄の消防ホースで養生グッズを手作りされている方も多いですね。前述のとおり、「エッジは刃物」ですので、これらも万全な手段ではありません。消防ホースがどれだけ簡単に穴が開くかは皆さんもよくご存知だと思います。さらに摩擦損失も35%と大きいため、引き上げ救助では避けるべきです。
ただ、毛布と違って重ねてもロープが食い込みにくく、毛布よりも耐久性が高いのは間違いありません。後述のエッジローラーなどのバックアップや、それほど鋭利ではないエッジでの使用は有効です。
エッジパッドは使いやすいですが、鋭い角や激しい摩擦には耐えられません。
コルゲート管
2014年ごろ海外のロープ救助大会で使用されていたことから、国内でも一気に広まったアイテムです。工業用や農業用の排水路なんかに使用される、波模様の入ったパイプを半分にカットしたものです。近所の土建屋さんの資材置き場にゴミとして積んであったりするので、地域によっては簡単に手に入ります。担架の出し入れの際、担架を滑らせることができるほか、幅があるためにロープが脱落することもありません。ほどよい直径のものだと、バスケット担架のなかにすっぽり収まったり、ロープバッグの外側にぴったりフィットしたりして搬送も便利です。
しかし、プラスチック製品ということもあり、薄い構造のものは突然割れてしまったり、厚くてもロープとの摩擦熱で溶解してしまったりします。薄いもの(一枚板のもの)を使用されている方は、必ずエッジパッド等を併用してください。また、摩擦損失も30%程度と大きいため、現在はそこまで積極的におすすめしていません。特性を理解して活用してください。
コルゲート管
加重による屈折やロープの摩擦で割れてしまいました。
エッジローラー
梯子型に並んだローラーにより、物理的にロープを浮かせることができるアイテムです。以前はローラーではなく、単に梯子型にパイプが並んでいるだけで摩擦抵抗の激しい商品が多かったのですが、近年はいろいろなメーカーから高品質なローラーを使ったものが発売されています。これにより、高取り支点でプーリーを使っているような高効率な引き上げが可能となりました。
注意点は床面やエッジ、ロープの進入角度が傾いていたりすると、エッジローラーが横転してロープが脱落することがあります。下に詰め物をして水平化したり、支点作成を工夫してロープが直角にローラーを通過するような一手間が必要な場合があります。前述のとおり、エッジパッド等を使ってエッジローラーの足場を固めたり、横転した際のバックアップにするのがおすすめです。
回転式のローラーは摩擦抵抗を20%以上改善します。
考えていただきたいこと
僕は「自分の手首を強めに押し当てて、水平にスッとスライドできるなら布でも可能。できないなら絶対に金属を使うか、違うラインでロープを設定して」と指導しています。もちろん、引き上げ等で強い圧力や摩擦が生じる場合は、布ではいけません。
訓練棟ではロープを切断するような鋭利なエッジはほとんどありません。しかし、一般的な建築物には、壁面や床面の角、配管金具、看板、排気ダクト、雨樋、庇(ひさし)、鉄骨など、非常に鋭利なエッジが多数存在します。これらのエッジは、とくに2人荷重のロープを本当にあっさりと切断します。
こういったエッジは空中に突出している場合もあります。設備屋さんも、まさかビルの壁面に打ち込んだ金具を誰かが触るなんて思ってないですから、わざわざ角を丸めたりしませんよね…もしかしたら、降下して空中で養生するような必要もあるかもしれません。
エッジ養生・ロープ保護というのは地味ですが、ものすごく深いテーマですので、ぜひいろんな現場、いろんな訓練会場で、技術だけでなく見極める目と幅広い知識も養ってください。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、部活では登山やクライミングに没頭した経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令や消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」や「日台消防交流会」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm~11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠した活動を提案する講習。レベル1~2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
お問い合わせ090-3989-8502
ホームページhttps://r2roperescueropeacce.wixsite.com/office-r2