2023.1.16
【第14回 安全管理の方法を見直そう】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
2022年の春、消防職員が三連梯子の上から転落し、重傷を負う事故が発生しました。報道されている以外にも全国で大小さまざまな事故が発生しています。みなさんの救助訓練は適正な安全管理がされていますか?
私は、訓練時のヘルメット・命綱・安全マットは常識のように思っていましたが、どうやらそうではない消防本部が複数あるようです。コミュニティサイトで三連梯子の訓練時に安全マットを敷くかアンケートをとったところ、「必ず複数枚敷く」と答えた方が1/3に達しました。一方で「敷かないこともある」と「火災訓練なので敷かない」という回答も1/3という結果になりました。
高所活動の法的根拠を把握しよう
大事な同僚・部下の生命・身体を守り、消防力を維持する、という当たり前のことは置いておいて、法的根拠について確認してみましょう。
まず、「消防救助操法の基準」では安全管理を徹底するように念入りに書かれています。
- 消防救助操法の基準
- 第三条2救助訓練の実施に当たっては、あらかじめ、次の各号に掲げる事項に留意した訓練計画を作成し、安全管理の徹底を図らなければならない。
- 一訓練課目は、基礎的課目から上級課目へと練度に応じて適切に配列するとともに、各課目ごとに安全措置を講ずること。
- 二訓練課目に応じ、訓練施設、機械器具及び安全 ネット、安全マットその他の安全器具を整備し、隊員が安全にかつ効率的に訓練を実施しうる態勢を 確立すること。
- 三訓練場は、各訓練課目の特性にもっとも適した場所を選定するとともに、当該場所の状況に応じた具体的な安全措置を講ずること。
次に、労働安全衛生法ではこのように書かれています。
- 第二十一条2事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
労働安全衛生規則ではこうです。
- 第五百十八条事業者は、高さが2m以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
- 2事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
- 第五百十九条事業者は、高さが2m以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という)を設けなければならない。
- 2事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なときまたは作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
墜落制止用器具が必要なのは「作業中」?
安衛則での墜落制止用器具の使用義務は作業時に限られ、通行・昇降時は対象外とされています。では、通行・昇降であれば、安全確保は不要なのでしょうか?まさか、厚労省がそんなマヌケな法令を作るわけありません。このような規定があります。
- (昇降するための設備の設置等)
- 第五百二十六条事業者は、高さまたは深さが1.5mをこえる箇所で作業を行なうときは、当該作業に従事する労働者が安全に昇降するための設備等を設けなければならない。ただし、安全に昇降するための設備等を設けることが作業の性質上著しく困難なときは、この限りでない。
- 【解釈例規】
- 「作業の性質上著しく困難なとき」には、立木等を昇降する場合があること。なお、この場合、労働者に当該立木等を安全に昇降するための用具を使用させなければならないことは、いうまでもない。(昭和43.6.14安発第100号)
そうです、作業時以外は無法地帯なんてことではなく、むしろ真逆。作業時以外に労働者がリスクに晒されることは禁止されています。やむを得ない場合に昇降設備を設けないことは認められていますが、その場合は何かしらの安全対策が義務付けられています。当然、梯子を昇降設備として用いる場合も同様です。
消防訓練で安全管理は必要?
宮崎市消防訓練事故事件(宮崎地裁判決 昭和57.3.30)では、実災害の現場では安全対策が徹底できないことに理解を示しつつも、訓練や演習の場合は安全対策できない理由はないのだから、徹底しなければならない。実災害の現場で職務をまっとうできるよう、常日ごろから安全な訓練をしなければならない、という判決を下しています。
ですから、安衛法・安衛則で定められた程度の内容は安全管理の最低ラインとして実施しなければならない内容といえます。もちろん、訓練想定が火災なのか高所救助なのかは関係ありません。
まずは基本の安全対策を
まず、保安帽・防火帽の着用は当たり前ですね。しかし、ヘルメットでは身体を守ることはできません。そこで有効な選択肢が安全マットとなります。消防学校では、マットは複数枚使用し、隊員の動きにあわせて位置を変えましたよね。「あれは初任科だからやってるだけ」なんてことではなく、何年勤務しても実施しましょう。基本を徹底できてこそのベテランです。基本技術は「下積み」や「通過儀礼」ではありません。
とはいえ、三連梯子の上に乗っている人が都合よくマットの上に落ちてくるとは限りません。なんせ7mの位置にいる場合、落下する範囲は半径7mという広範囲に予想されるわけです。訓練の内容(高さ)によってはマットでの安全管理には限界があります。ロープを使って確保している本部もあるようです。素晴らしい!ただ、人数の少ない本部では少し難しいかもしれませんね。
新しい器材「安全ブロック」も取り入れてみよう
建設・工場・運送などの幅広い現場で、梯子の昇り降りに使用されている「安全ブロック」という確保器具があります。いわゆる安全帯メーカーが製造し、民間ではめちゃくちゃメジャーなものです。シートベルトと同様の構造で、落下するとロックされます。
飛び降りたり走ったりしない限りはロックがかかることはなく、体の動きにあわせて常に命綱が軽く張られています。確保の人員も不要ですし、もちろん実際の災害現場で要救助者の確保に使うことも可能です。
梯子以外にも、引き揚げ訓練塔での訓練時に、ランヤードの長さ調整や位置調整に手間取ったことはありませんか?懸垂降下する隊員のビレイに一人とられるのが辛いことはありませんか?ロープ高所作業の規程でもライフラインの代用に使用することも認められています。一人荷重用の確保器具ですが、救助訓練・救助活動のさまざまな確保のニーズに応えられる資器材です。ぜひ、導入検討してみてください。
まとめ
安全を意識した活動をする、公務員としてコンプライアンスを意識した活動をする。普段から当たり前に皆さんが行っていることです。しかし、知らないことは意識できませんから、できていないはずです。上述のような知識が知らないうちにダウンロードされるわけではありませんから、誰しも知らないことは仕方ないことです。(もちろん勉強はしていただきたいのですが)
しかし今回、みなさんは知識に触れました。明日から、本部の名前の入った制服を着て、同僚や部下と訓練をするにあたり、今までのやり方を振り返り、一歩進化させる機会にしていただければ幸いです。
ロープレスキューの活動においても今回触れたような知識は必須です。高所活動・高所安全管理の上位に位置するのがロープレスキューですから、こういった基礎を飛ばして手技が先行しても、カッコだけになってしまいます。
また、重大事故が内部で処理され、組織内ですら共有されないような風土では、その組織に未来はありません。本来なら、ヒヤリハットでも他の本部のために公表・注意喚起するのがプロの組織です。起きてしまったことに真剣に向き合い、「二度と起こさないためにどうするのか?」に取り組めなければ、次は仲間や市民を死なせることになります。
プロ意識を持って、日々進歩、よろしくお願いします。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、山岳部などの経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令を踏まえつつ消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm〜11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠しつつ、現場に即した技術を重視。高所作業や競技の技術ではなく、消防活動におけるベストを提案する講習。レベル1〜2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
お問い合わせ090-3989-8502
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