2025.1.8
FIRE REPORT #168 海部南部消防組合消防本部 緊急消防援助隊派遣レポート
各都道府県に津波・大規模風水害対策車とセットで分配配備されている小型水陸両用車(通称「水陸両用バギー」)は、愛知県では海部南部消防組合消防本部が2014年4月から運用している。これまで「平成30年7月豪雨」、「令和3年熱海市伊豆山土石流災害」への派遣実績があるが、能登半島地震においても緊急消防援助隊3次隊から現場での運用を開始。道路のひび割れ・陥没に加え、積雪という悪条件でほかの車両が走行に支障をきたすなかで、その悪路走破能力を存分に発揮してさまざまな用途に使用され活躍した。
出動時は津波・大規模風水害対策車に格納・輸送される。パンクに備え予備タイヤも積載。
水陸両用を実現する8輪のタイヤは水をかくことで水上での推進力も生み出す。より高速な水上航行が必要な場合は後部に船外機も装着可能。排気管は車体上部まで取り回している。
操舵は舵輪ではなく左右のタイヤの回転差で行う。その場での360度ターンも可能。
がれきの上など、より劣悪な走行条件に備えて装着する無限軌道も風水害対策車に積載。
ノーズ部分には自車の登坂補助のためのウインチを装備。
専用レールを取り付けることでストレッチャーを固定して、要救助者を搬送することもできる。
ハンドル形状は二輪車のものに近く、アクセル・ブレーキも同様。トランスミッションの操作はシンプルで、「前進」「ニュートラル」「後退」のみと、あとは「高速」と「低速」の副変速がある。
積雪の能登半島でも
多用途に活躍
能登半島地震の現場では、主として人員や装備資器材の輸送に使用された。これまでの派遣任務と比較して走行距離が大幅に延びたため、それに起因するトラブルも発生し、現場で対応することもあった。
積雪のある斜面での傷病者搬送という、徒手搬送のみでは労力と時間が必要となる任務を、車載ウインチを使用してアシスト。凍結路面ではタイヤの空気圧を落とすなど、臨機応変な装備の活用が、活動の幅を広げた。
能登半島地震での
活動隊員に
アンケート
今回、海部南部消防組合消防本部の協力で、令和6年能登半島地震の被災現場に緊急消防援助隊として派遣された隊員へのアンケート調査を実施することができた。そのなかから現場で実感した生の声を抜粋して紹介する。
【アンケート概要】※いずれも複数回答
- 回答人数
- 34名
- 調査方法
- 記述
- 調査時期
- 2024年8月
- 対象
- 能登半島地震に派遣され活動した消防本部職員
活動中、
とくに役に立ったと思う装備資器材は?
回答数 | 回答 | 具体例・補足 |
---|---|---|
13 | ライト | 多くの場面で必要 |
9 | 衣類 |
胴長・防寒フード、 |
7 | グローブ・手袋 | 防水や防寒機能のある手袋 |
7 | 車両 | 小型水陸両用車 |
2 | バッテリー |
モバイル |
2 | 文房具 |
養生テープ、 |
その他 | レッグカバー・ソックスバンド(雨雪対策)、キャリーカート、衛星電話、無線機携帯用ベスト |
活動中、
あったらよかったと思う装備資器材は?
回答数 | 回答 | 具体例・補足 |
---|---|---|
8 | モバイルルーター |
主要キャリア |
5 | 衣類 |
雨具、防寒着、 |
2 | バッテリー |
速充電可能な |
2 | ベルトコンベア | 土砂の搬出に使用 |
2 | 電動のこぎり | 倒木で進入できないときに使用 |
2 | 大型スコップ | 泥をかき出すときに使用 |
2 | 靴 | 滑りにくい活動靴、登山用ブーツ |
1 | 資器材保管場所 |
積雪に対応できる |
その他 | 除雪車、小型水陸両用車(増車)、高圧洗浄機、簡易足場、クーラーボックス、ホットボックス |
装備以外で役立った(もしくは欲しかった)と思う物品は?
回答数 | 回答 | 具体例・補足 |
---|---|---|
5 | ボディシート | 入浴ができないため |
4 | 靴乾燥機 | 翌日の活動に備えるため |
3 | パン・菓子パン |
素早い |
3 |
シリコン | 靴の濡れ防止 |
3 | 簡易トイレ | トイレが足りないため |
2 | ベスト | 充電式の電熱ベスト |
2 | ドライシャンプー | 意外に快適になる |
2 | 長靴 | 足元が悪いため |
1 | 睡眠改善薬 | テントでの睡眠のため |
1 | 防水スマホケース |
ネック |
1 | カイロ | 防寒 |
1 |
テント内用 |
簡単に |
1 | 旅行用枕 | 睡眠時に使用 |
照明や通信関係がニーズの上位。また活動場所が積雪していたため、防寒や濡れ・汚れに関連する要望も多かった。生活面では衛生に関する苦労がうかがわれ、物品ではないが持っていく食事のバリエーションを増やすといった工夫も必要だという意見があった。
データ通信手段確保の
重要性を痛感
大規模災害の被災地では、移動体通信の基地局がダメージを受けたり電源の供給が止まったりして、スマートフォン等が利用不能になります。音声通信は衛星電話や無線で可能ですが、今は画像をはじめ活動中のデータ送受信も多く、それができないのは困りました。今後は衛星インターネットアクセスが可能な高速通信環境が必須となります。当組合としても災害に対応するため、自前での準備も検討する必要があります。
海部南部消防組合消防本部
岡本 浩嗣消防司令補(右)
桑原 大地消防司令補(左)
海部南部消防組合、
その地理的役割
海部南部消防組合消防本部の管轄区域は愛知県弥富市と飛島村。三重県との県境に接し、国道1号線、東名阪自動車道および伊勢湾岸自動車道など主要道路が縦横に走っている。その地勢から、関西方面へ向かう緊急消防援助隊愛知県大隊の集結確認業務を実施することが求められている。さらに津波・大規模風水害対策車は県大隊に先行して活動する統合機動部隊に編成されており、その派遣と大隊の集結確認業務の同時進行を迅速にこなすためには、職員全員の緊急消防援助隊への高い理解が不可欠。その習熟のために海部南部消防組合消防本部では同時進行の想定マニュアルを作成して訓練を継続している。
津波を想定した
災害に強い新庁舎建設中
海部南部消防組合消防本部の庁舎は海抜0メートル地帯の津波被害想定区域に立地するため、南海トラフ地震をはじめとした津波襲来に備えた新しい庁舎を現庁舎の隣に建設中。
耐震構造の新庁舎は災害時における活動の継続を主眼とし、1階部分は自動的に窓が外れて津波の力が抜ける設計とするなど、多くのアイデアが盛り込まれている。2025年2月に仮運用開始、4月には本格運用となる予定だ。
完成予想パース。津波の襲来時は消防車両をスロープを使って車庫屋上部分へ退避させる。庁舎の主要機能は2階以上に集約。