2017.1.23
命の絆No.48 イタリア共和国ロンバルディア州ヴァレーゼ県消防
命の絆 消防ヘルメット
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が、彼らを突き動かせる。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。
No.48 イタリア共和国ロンバルディア州ヴァレーゼ県消防(VARESE VdF)
シコル社製VF2 ヘルメット
ヨーロッパの消防は国際標準化機構ISOの準拠によって、各種装備品や機器の標準化が1980年代末に進められた。イタリア共和国も国家消防組織のもとで永年にわたって装備していたミツパ( MISPA)社製のエレガントヘルメットの更新が迫られたのである。
当時はフランスのCGF社の「ガレF1ヘルメット」が隊員の安全に最も適しているとされ、多くのヨーロッパの国で採用され始めていた。一方、イタリアでは新しいISOに準拠するものとして「VF2ヘルメット」がシコル社により誕生。この性能確認のため、イタリア共和国の90の消防隊で実証実験をすることとなり、多くはオートバイに消防機材を積載した消防隊員が着装したという。その一つが今回ご紹介するヘルメットであり、現在もこの発展型の「VFR2000ヘルメット」が使われている。
帽体はアラミド系プラスチックで、どことなくガレF1と似た外観である。正面の幅広のベルトには、略式化された消防章及び消防隊名の表示取り付け具を備えており、2重の顔面バイザーは大きく、後頭部保護にも対応したものだ。帽体内のハンモックは全体を包み込む方式で、あご紐も丈夫な新素材繊維でしつらえてある。この発展型としては「EDL01ヘルメット」がある。
イタリア共和国の消防は、1961年5月23日法律第469号によって行政執行されていて、基本は国家(軍)組織である。国内8つの中央総局の下に118の地方消防コマンドがあり、800の消防署に36,000の消火・救助・特殊災害・航空・水難・NBCR(核・生物・化学・放射能)災害に対処する隊が配置され、さらに市民による消防ボランティア隊の編成や次代の消防業務を担う青年隊の育成も行っている。
ミラノ市から北西約90kmにあるヴァレーゼ県の消防機関は、ヴァレーゼ地方コマンドの下にアルシーガッテラーテ支庁が置かれ、さらに地方隊としてイスプラ、ルイノ、サロン、ソンマロンバルドがあり、ヴァレーゼ空港支隊、航空機部門のロンバルディア及びガッテラーテボランティア消防支隊が配置され、災害対応する500名の消防士のほか、予防・教育・総務系職員、さらに内務監察担当3人の配置だ。2016年8月24日早朝には、4台の救援車に分乗して中部イタリアのアマトリーチェを襲った地震災害への緊急援助にも向かっている。
ヘルメットを贈っていただいたのは、ヴァレーゼ市内のVIGILI DELFUOCOのルテナン(消防司令補)のマッシーナ・クラウディオ氏で、配置消防車両の写真多数とともに2000年10月17日に届けられた。限られた数しか消防隊へ届かなかった、この真新しい「VF2ヘルメット」が、はるばる日本にあることそのものが不思議な気がしてならない。実証実験に供され、ガレF1に似た新VFR2000の礎となったこのヘルメットに敬意を表したい。
災害現場という場所は何が起こるかわからない。突如、倒壊物が襲い掛かってきたり、足場が崩れて転落する可能性も大きいわけだ。頭部に大きなダメージが加われば命に関わる結果となり、脳に障害を与える危険もある。災害現場であれば頭を打って意識を失っている間に要救助者の生命は危険に曝され、隊員自身も更なる悲劇に見舞われないとも限らない。つまり、消防におけるヘルメットとは隊員はもとより、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在であるといえる。ここでは世界の消防が使用する「消防ヘルメット」にスポットをあて、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。
WINTER 2016/FIRE RESCUE EMS vol.76