2018.11.26
【最終回 消防レスキュー人生】
~ロープブリッジ救出訓練指導者~連載企画
横浜市消防局都筑消防署 仲町台特別救助隊
山崎 浩司 消防司令補
人命救助の最前線を担う特別救助隊。その磨き上げた救助技術を競い合う“消防レスキューの甲子園”、全国消防救助技術大会へ二年連続の出場を果たし、現在は後進の指導に情熱を注ぐ隊長の熱い想い。
「第3回 合同訓練の勧め」はこちら
「第2回 本番で失敗しない練習」はこちら
「第1回 悔しさを糧に上をめざす」はこちら
-最終回- 消防レスキュー人生
チームの底上げへつながるポイント
早いもので連載が始まってもう一年が過ぎ、今回が最終回。せっかくの機会ですから、私がこれまでの経験で学んだレベルアップポイントをおさらいしたいと思います。
●失敗を分析する
偶然と思える失敗も、実は必然の上に起きています。「やってしまった」と流すのではなく、できればすぐに「なぜそうなったのか?」をしっかり考える癖をつけさせることが大事です。また、スランプはレベルアップの絶好の機会。いつも以上に悩み、考え、練習してください。
●「80%の全力」を習得する
とくにロープブリッジ救出は4線で一斉に行う種目ですので、どうしても他チームが視界に入り、焦りが出てしまいます。それが無理につながり、結果ミスとなる。常勝チームは速いチームではありません。ミスをしないチームです。良いタイムを出そうという考えではなく、とにかくミスをなくす。個々のミスをカバーしあうことがチームワークなのではなく、ミスしないチームになるために自分の実力の限界を知り、その範囲内で全力を尽くす。難しいことですが、これができるようになることこそがチームワークです。視線は常に自分たちに向けてください。負けの原因は自分にあり、勝ちの原因は相手にあります。
●ほかの消防本部と積極的に交流する
情報を共有し刺激を受け、常に新しい要素を取り入れましょう。自己完結では大きな進化は望めません。勇気が必要です。
●指導者は環境に気を配る
誰にも平等にチャンスがあり、チームの中にも競争がある。そして失敗を責めず、いつでも相談できる空気を作る。そうした環境がモチベーションを向上させ、実のある良い訓練へとつながります。
「勝ったときだけでなく、負けたときにも話題になる」。そんな誰からも愛されるチームをともにめざしましょう。
全国大会に挑む真の意味
救助隊員でいる以上、「救助」と名の付くものにはとくに全力で取り組まなければなりません。まして救助大会は「救助の大会」ですから、必ずめざしてもらいたい場所です。しかし全国大会に行けるチームはほんの一握り。ほとんどの隊員が悔し涙を流しています。
私自身、ロープブリッジ救出への挑戦は決して楽な道だったとは言えません。なにせ全国大会へ出場するまでに15年。しかし遠回りも悪くない。むしろ経験した悔しさの数だけ成長の源があり、それらを礎に今の自分があるのだと思っています。今回の連載にしても、選手や指導者として、長くブリ救に携わり続けてきたからこそ得られた機会とも言えます。
全国大会は特別な空間です。勝ち負けではなく、参加する全隊員が互いを認めあい、その仲間やご家族も一体となってすべてのチームを応援する。地区大会では必ず悔し涙が流れていますが、全国大会は会場全体が笑顔に包まれている最高の舞台です。ぜひその素晴らしい光景を皆さまにも棟上から見てもらいたい。そして最後の一本は「自分」のために全国から集まった精鋭と真剣勝負をし、今後の消防人生の糧にして欲しいと思います。
隊長としての新たな挑戦
今年は私にも変化がありました。4月に異動になった仲町台特別救助隊には、横浜市消防局初の女性救助隊員が配属されています。しかし男性と女性では違いがあるのは当然であり、隊長としては「女性ならではの強み」を見つけ、いかに伸ばしていくかが目下の課題。例えば、彼女がすでに持っている救急救命士の資格を生かすことができれば、現場で要救助者にもっと寄り添える救助隊員となれる。そうした可能性を示すのも隊長の仕事です。
女性の消防職員、ましてや救助隊員となると全国的にもまだまだ少なく、彼女の今後の成長や実績が横浜市消防局でのロールモデルとなっていくはずだと思うと、指導にもまた違った責任を感じます。いくつになっても新しいことにトライさせてもらえるのは幸せなことです。今後、女性隊員が増え、救助大会女子の部が開催される日が来るかもしれません。
来年の全国大会は岡山です。横浜レンジャーは「不撓不屈の精神」で全国出場の切符を掴みたいと思います。岡山で会いましょう。