2019.9.9
FIRE REPORT #152 消防職員の命を守るために!『救難活動マニュアル』
『救難活動マニュアル』とは
災害現場での活動において、予測のつかない状況が発生したとき、最悪の事態=殉職を避けるためにどういう行動をとれば良いか? そうした非常時に用いる手技をまとめ、行動の指針となるマニュアル。個人としての「セルフサバイバル」、部隊としての「チームサバイバル」、そして即時介入隊による「チームレスキュー」のそれぞれについて、写真を多用しつつA4版42ページにわたって解説されている。
横浜市消防局内でマニュアルの構想が生まれたのは2009年。実際の整備にあたっては特別高度救助部隊(SR)が中心となり、10年ほどの検討期間を経て2019年2月から正式に組織的な運用が始まった。狭隘空間で空気呼吸器を着装した状態で行動不能になった消防隊員を素早く救出する手技など、最悪の状況下で命を守る実践的な内容を盛り込んだ画期的なものとなっている。
マニュアル作成の背景
マニュアルの構成
マニュアル掲載の手技の一部を紹介!
チームサバイバル
防火衣・空気呼吸器の脱装
火災現場から搬送された要救助隊員から空気呼吸器や防火衣を素早く脱装し、熱傷の悪化を防ぐとともに救急隊への引き継ぎの迅速化を図る。
頭側の隊員が両足で空気呼吸器を挟んで座り、面体を外す。両側の隊員は空気呼吸器のベルトを外し、防火衣の前を開く。必要に応じて胸骨圧迫も行う。
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防火手袋を外し、防火衣の袖をしっかりと手首から抜く。胸骨圧迫は途切れないように左右の隊員が協力して行う。
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頭側の隊員が防火衣の両袖をつかみ、もう一人は足を抱える。胸骨圧迫は継続している。
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足を抱えた隊員が腰を持ち上げ、頭側の隊員が両袖を引っ張って防火衣を引き抜く。脇の隊員は頭を支える。隊員が熱中症になった際にも応用できる手技。
一人搬送
空気呼吸器を着装した要救助隊員を一人で搬送する方法の一つ。
空気呼吸器の背負いバンドを持ち、要救助隊員の上半身を起こす。
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両手で背負いバンドをつかみ、後方へ搬送。狭い通路や上り階段での搬送に適した手技。
チームレスキュー
ウインドウ・ドリル
通常の要救助者と異なり、空気呼吸器等15kgほどの装備を着装した消防隊員を窓から救出搬送するための手技。
倒れている要救助隊員をまずは仰向けにする。
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2名1組で両側から抱え、足を先にして窓の近くに搬送。
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要救助隊員の両足を窓枠に乗せ、外にいる隊員がつかむ。
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両脇の隊員で要救助隊員を持ち上げ、窓枠に乗せるようにする。
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窓外の隊員が要救助隊員を受け取る。屋内の隊員はその補助にあたる。
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高所の場合、はしごを使って救出。その際、空気呼吸器がじゃまにならない体勢を保持する。
屋内進入
はしごからの屋内進入。窓からの救出を想定している。
通常の救助とは異なり、窓枠より上にはしごが出ないように架梯。
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濃煙・熱気を想定し、なるべく低い姿勢で床を手で探りながら進入。
『救難活動マニュアル』の最大の目的は、災害現場において想定を上回る状況に陥ったとき、なんとしても消防職員の命を守ることです。究極の状況での緊急対応策ですから、通常の安全管理の手順とは矛盾するような手技も含まれます。ここで誤解して欲しくないのが、決して安全管理手順をないがしろにしているわけではないということです。まずは安全管理の徹底が大前提。『救難活動マニュアル』は、あくまで予測できない万が一の状況に対応するためのものであるということを理解しておく必要があります。とはいえ、紹介している内容は、きちんと訓練を重ねておけば可能な手技であり、身に付けることによって、いざというときに自分や仲間の命を守るとともに、活動時に心に余裕を与えるという好影響も期待できます。
通常は行われない手技を紹介していますから、内容が正確に伝わるための工夫として写真を多く使い、手技の選定にも気を配りました。現在はこのマニュアルを活用し、市内各署所で訓練が実施されています。また特別救助隊に対しては、即時介入隊としての役割も含めた訓練・検証も始まっています。今後はそうした各方面からの声も取り入れつつ改定を重ね、将来的には書籍化も視野に入れています。
横浜市消防局 特別高度救助部隊
消防士長 木内 賢
横浜市消防局/横浜市保土ケ谷区川辺町2-9
09|10 2019/FIRE RESCUE EMS vol.87