2020.8.28
命の絆No.65 アメリカ合衆国 ヴァージニア州 オークニー・スプリングス消防
命の絆 消防ヘルメット
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。
時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が、彼らを突き動かす。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。
「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。
No.65 アメリカ合衆国 ヴァージニア州 オークニー・スプリングス消防
ケアンズ・アンド・ブラザー社 ポリカーボネート製990P 「キャラバン」ヘルメット
ヴァージニア州はアメリカ東部13州の一つで、1788年6月25日にイギリスから独立して10番目の州として合衆国憲法を批准した。州都は内陸域のリッチモンド市で、そこから北西に進み、マディソン・カウンティやブルーリッジ山脈を越えたウエストヴァージニア州との州境にオークニー・スプリングス(ORKNEY SPRINGS)※がある。ヴァージニア州には市、郡、町のいずれでもないコミュニティが多数あり、オークニー・スプリングスもその一つ。人口はわずか31名で、スプリングスという名のとおり鉱泉が湧き出ている。
ヴァージニア州内には551のファイア・デパートメントがあり、このうちオークニー・スプリングスのあるシェナンドー・カウンティ内では22がボランティアの手で運用されている。オークニー・スプリングス消防は第18番の個有番号。バサイという場所に消防庁舎を設けてボランティア隊員22名が登録の上、火災やレスキュー活動にかかわっている。
自然豊かな土地であり、林間での火災に対して予防キャンペーンで常々注意喚起を行っているが、2010年11月には山小屋からの出火で3名が病院へ収容されている。近隣のカウンティのボランティア消防も7隊駆け付けての消火活動であった。
この山深い地で使われた今回の消防ヘルメットは、ケアンズ・アンド・ブラザー社が1970年代後半に発表したモデル990P「キャラバン」。素材はポリカーボネートでありながら、皮革製ヘルメットと同様の外観がアメリカ合衆国のボランティア消防に大いに歓迎され、採用が広がった。立てられたフロントピースには地名である「ORKNEY SPRINGS」と「VFD」(VOLUNTEER FIRE DEPARTMENTの略称)の文字に加え、第7番目の消防隊員を示す個有番号バッジが取り付けてある。帽体内ライナーはハンモックと耳覆いをフランネル地でしつらえている。
このヘルメットを贈っていただいたのは、チェサピーク湾に注ぐ河口の都市、ハンプトン消防本部のロナルド・D・コリンズ消防士で、1985年2月22日のことであった。アメリカ合衆国の発展に寄与したフロンティア時代からのテンガロンハット(10ガロンの水を汲める帽子)にシルエットが似た消防ヘルメットは、時代が過ぎても愛され続けていくであろう。
※地名の「オークニー」とは、イギリスのオークニー諸島からの出身者による地名である。
特徴的なデザインにはさまざまな機能が秘められており、頭部保護という同じ目的を持ちながら国によっていろいろなパターンを見ることができる。
そもそもヘルメットは軍事用として誕生し、古くから頭部に直接加えられる打撃力を減少し、直接的な負傷を防ぐことに重きがおかれてきた。後に用途ごとに進化を続け、使用される環境によって求められる性能やそれに伴う形状や素材の変化を見せてきた。
消防で用いるヘルメットも、“災害”という敵から“消防士”という戦士を守るための“防具”であるといえる。
災害現場という場所は何が起こるかわからない。
突如、倒壊物が襲い掛かってきたり、足場が崩れて転落する可能性も大きいわけだ。頭部に大きなダメージが加われば命に関わる結果となり、脳に障害を与える危険もある。災害現場であれば頭を打って意識を失っている間に要救助者の生命は危険に曝され、隊員自身も更なる悲劇に見舞われないとも限らない。
つまり、消防におけるヘルメットとは隊員はもとより、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在であるといえる。ここでは世界の消防が使用する「消防ヘルメット」にスポットをあて、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。
09|10 2020/FIRE RESCUE EMS vol.93