2019.2.4
命の絆No.56 アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク市 水上消防第2カンパニー
命の絆 消防ヘルメット
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。
時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が、彼らを突き動かせる。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。
「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。
No.56 アメリカ合衆国 ニューヨーク州ニューヨーク市 水上消防第2カンパニー
ケアンズ&ブラザー社
アルミ合金製モデル418型「ドロップト・ブリム」ヘルメット
ハドソン河とイーストリバー河口にひらけ、大西洋岸とも接するニューヨーク市は、海外から多くの移民を受け入れ、湾岸部では脆弱な街が拡大した。19世紀末の問題として、船舶、接岸船舶と桟橋、埠頭の倉庫や沿岸近くの建物火災や油流出が増加。1890年代、これらに対処する必要から、消防艇が所属する水上対応の消防署マリーン・カンパニーを開設した。
マリーン・カンパニー2は1893年2月11日に開隊し、当時はファイアボートテンダーとして陸地の消防隊のポンプ車エンジン34(E-34)とともに、マンハッタン区のハドソン河畔255番ストリート、西355番地を拠点とした。以後、何度か解隊と再編を経て、元マリーン・カンパニー1で使われた1931年建造の消防艇「ジョンJ.ハーヴェイ」号がマリーン・カンパニー2に配置された。
建造新船の進水時、トッド造船所にて銘板を取り付けられた消防艇「ジョンJ.ハーヴェイ」のその名は、水上消防活動中に殉職したニューヨーク市消防局在籍の先輩消防士の名前に由来する。総トン数268トン、船の長さ130フィート(40メートル)、最大幅28フィート(8.5メートル)で吸水能力は1分間に18,000ガロン。放水砲(デッキモニター)8門と消防ホース用大型連結口24個を備え、18ノットの速力を持つ著名な消防艇であった。
この当時の大西洋航路の客船といえばイギリスからのキュナードラインが有名だが、1932年、ニューヨーク港キュナードライン専用埠頭に接岸中の客船「ノルマンディ」号から火災が発生。この消火にはマリーン2も出動。次いでの大火災は1942年、ヨーロッパ戦線への弾薬運搬船「エルエステロ」号の火災などがあり、消防艇「ジョンJ.ハーヴェイ」号は沿岸部の倉庫群火災にも大活躍をする。1959年3月にはニューヨーク市消防局のマリーン・ディヴィジョンに所属。10水上消防署の計10艇の消防艇と小型救命艇とともに再配置された。
マリーン・カンパニー2にはE-87ポンプ車も一緒に配置されたものの、1960年代から1970年代にかけての不況は同市消防予算を圧迫した。マリーン・カンパニー10署のうち6署が閉鎖され、残るは第1、第2、第6及び第9の4署となった。そして1992年、マリーン・カンパニー第2消防署はついに幕を閉じたのである。
今回紹介するのは、このマリーン・カンパニー2に属した消防艇隊員用ヘルメットで、1937年から1942年にかけて生産されたケアンズ&ブラザー社のアルミニウム合金製のモデル418型だ。黒色の帽体は4方向にしっかりとした筋交いを組み、下方の庇は下り勾配(ドロップト・ブリム)に仕上げている。帽体内のライナーは新しい方法を採用し、これについては特許を取得したことの説明が記されている。
帽体正面のフロントピースは高さ6インチ。小ぶりであるが皮革製の白地座に赤地色、白文字で「MARINE」、下方も同様に「MFD(マリーン・ファイア・ディヴィジョン)」。中央には黒文字の「2(マリーン・カンパニー2)」すなわち、「ジョンJ.ハーヴェイ」消防艇隊の標識であることがわかる。このヘルメットは1950年頃まで使われたが、その後にこの消防艇隊はケアンズ&ブラザー社製のモデル7型ヘルメットを採用したため、廃ヘルメットとなってしまった。
このヘルメットはマリーン・カンパニー2に勤務し、ニューヨーク州ノーウィックでボランティア消防に参加するジョセフA.ワグナー氏から1983年12月7日に贈っていただいたものだ。
特徴的なデザインにはさまざまな機能が秘められており、頭部保護という同じ目的を持ちながら国によっていろいろなパターンを見ることができる。
そもそもヘルメットは軍事用として誕生し、古くから頭部に直接加えられる打撃力を減少し、直接的な負傷を防ぐことに重きがおかれてきた。後に用途ごとに進化を続け、使用される環境によって求められる性能やそれに伴う形状や素材の変化を見せてきた。
消防で用いるヘルメットも、“災害”という敵から“消防士”という戦士を守るための“防具”であるといえる。
災害現場という場所は何が起こるかわからない。
突如、倒壊物が襲い掛かってきたり、足場が崩れて転落する可能性も大きいわけだ。頭部に大きなダメージが加われば命に関わる結果となり、脳に障害を与える危険もある。災害現場であれば頭を打って意識を失っている間に要救助者の生命は危険に曝され、隊員自身も更なる悲劇に見舞われないとも限らない。
つまり、消防におけるヘルメットとは隊員はもとより、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在であるといえる。ここでは世界の消防が使用する「消防ヘルメット」にスポットをあて、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。
SPRING 2019/FIRE RESCUE EMS vol.84