近年頻発する大規模な自然災害へのさらなる対処能力強化のために東京消防庁が初の警防部直轄部隊として設置した即応対処部隊。部隊名に「即応」の文字があることでわかるとおり、被災直後の災害現場へいち早く進入し、活動することが求められている。その役割は災害状況の把握、救助、後着隊の進入導線確保、本部との情報共有、指揮支援など多岐にわたり、そのために必要となる多様な装備資器材も配備される。隊員数は合計42名(1部13名の3部構成)態勢で、他隊との連携を前提に活動する部隊である。
大交替で始まる即応対処部隊の一日。申し送りののち、配備された多様な車両、装備資器材を一つひとつ丹念にチェック。車両灯火、個人装備品等が対象の交替時点検は約20分、積載品や資器材が対象の二次点検は約1時間であり、出場指令に備えた日々のルーチンが続く。
高機動救助車
悪路での走破性が高い高機動救助車は、ポンプを積載して放水が可能な「活動型」と主に装備資器材や人員の搬送に使われる「搬送型」の2種を配備。ベースとなる車両はメルセデスベンツのU5023、通称「ウニモグ」。
全地形活動車
泥濘地をはじめ、あらゆる地形を走行可能な全地形活動車。情報収集や初動の救助活動、後続隊の進入路確保など多用途に活用される。
エアボート
スクリュー式と異なりガレキの浮遊する水域や浅瀬でも航行可能なエアボート。東京消防庁では大小2艇が配備され、両方とも即応対処部隊が運用している。救助活動や情報収集で使用されるが、スクリューの逆進による制動や後退ができないため、操縦には風や潮を読む特殊な技能が必要。
ドラグショベル・クローラークレーン
アタッチメントを交換することで多目的に使用可能なドラグショベルは熱海市伊豆山土石流災害でも使用された。コンパクトで狭隘地にも進入可能なクローラークレーンは、脚のように見える4本のアウトリガーにより水平でない地面でも作業可能。
全国の消防組織で採用が増えつつあるドローンは、即応対処部隊でも重要な装備の一つ。この日は訓練場に建てられたプレハブ家屋を上空から観察し、被災状況を把握する訓練が行われた。映像は共有され、安全で効率的な隊の配置などに役立てられる。
即応対処部隊では目的別に4種類のドローンを運用。赤外線カメラを使用すれば残存火源や行方不明者の検索など、活用の幅も大きく広がる。
進入困難な浸水エリアに取り残された要救助者を高機動救助車を使って救助する訓練。なお、実際の災害現場ではハイパーレスキュー隊員らと連携して救助活動を行う。
要救助者役を無事荷台に収容。浸水エリアという想定のため、隊員は落水時に備えてフローティングベストを着装している。
吸排気管を上部に延長した高機動救助車はカタログスペックで1.2メートルの水深まで走行が可能。
エンブレムの「黒」に込められた部隊の思い
Q.お二人の入隊の経緯は?
五味士長 全国各地で発生している大規模な災害を見ていくなかで自分のできることを考え、まだまだ知識も技術も高めていく必要性を感じていました。そんなときに部隊創設と隊員募集のことを知り、当時の上司に相談して応募することに決めました。
竹石士長 私も同じで、庁内公募に応募して入隊しました。それまで特別救助隊員として約10年間、常により良い活動を追求してきましたので、この部隊でも同様の心構えで勤務しています。
五味士長 即応対処部隊のイメージカラーはエンブレムで表現しているように黒です。これには「すべての色を混ぜ合わせ、ほかの色に影響を受けない」という意味を込めています。経験や年齢が異なるさまざまな特技を持った隊員が集まって構成されている部隊ですので、隊訓も含めてチームの一体感は特に大切にしています。
即応対処部隊のエンブレムが描かれたワッペンと防火帽。防火帽は部隊員専用で、現場での識別を容易にする意味もある。
Q.これまで主にどのような活動を?
竹石士長 大きなところでは2021年の熱海市伊豆山土石流災害に緊急消防援助隊として派遣されました。初期の段階から現場に入りましたので、ドローンでの情報収集だけでなく捜索救助活動にも従事しました。
五味士長 自然災害に限定せず、大規模な火災では現場指揮支援活動をするために総括部隊長が出場しますし、配備されたポンプ車で近隣の火災にも対応しています。
竹石士長 配備された車両や装備資器材に精通することも重要です。例えばドローンは航空機として扱われるため、操縦時のプレッシャーが大きく気を使います。
五味士長 重機も自分の手足のように扱えるようにならなければいけませんので、課題を持って訓練を続けています。
熱海市伊豆山土石流災害の現場で活動する即応対処部隊。狭隘空間に進入後、スコップの刺さらない土砂を手でかき出すなど過酷な現場だった。
取材中にも火災延焼現場での指揮支援を行うため、即応情報隊が指揮統制車で出場して行った。
消防職員として
Q.今後、部隊にどう貢献していきたいですか?
竹石士長 どんな仕事でもそうですが、私は他人との関係をとても重視しています。私が間に入って人と人をつなぐことで、その輪(和)が正の連鎖として続いていき、組織が良い方向に進んでいけば嬉しいです。
五味士長 東京消防庁の即応対処部隊として何ができるのか、何をやるべきか、ということを考え、常に新しい試みに積極的に取り組んでいくことが大事だと考えています。そして自分自身が小学生のころに憧れた消防士像に近づいていきたいです。
竹石士長 以前、漫画『め組の大吾』作者の曽田先生とお会いする機会があり、そのときに東京都民の皆さんが抱く消防職員への期待をじっくりと聴かせていただきました。私たちとしては、その期待に少しでも応えるために自分たちを高めていかなければならないと肝に命じています。