2024.4.4
FIRE REPORT #165 送電鉄塔救助官民合同訓練
- 実施日
- 2023年11月20日、21日
- 場所
- 中電工研修所敷地内研修用施設
- 参加
- 広島市消防局より佐東救助隊(安佐南消防署)および五日市救助隊(佐伯消防署)、中国電力ネットワーク株式会社、株式会社中電工
高度経済成長期に建設された送電鉄塔は、すでに建設後50年以上を経過したものが全国的に増加傾向にあり、老朽化による設備修繕の必要性が高まっている。鉄塔上での工事頻度が増えれば、おのずと事故発生率も上がる。そうした状況をふまえて、2023年晩秋、かねてから計画していた民間送配電会社と広島市消防局による官民合同訓練が行われた。
作業中に発生する事故の予防と迅速な対応の向上を図るため、中電工研修所が保有する専門訓練施設。広大な敷地内には、そびえ立つ鉄塔群のほかにも、電柱の森といった見慣れぬ区画も
想定は、「はしご車が進入できない山林に建設された送電鉄塔上での修理作業中に、作業員(要救助者)が送電線上で意識消失。なおかつ、要救助者は民間送電工事会社が普段使用する資器材を装備しており、消防資器材との相違を確認しながら他隊と連携し、要救助者を地上へ安全に運び降ろす」という現場に即した救助訓練内容であった。
訓練前、2隊は送配電会社社員による鉄塔での活動時の危険性や注意点について指導を受けた。救助隊は、おもに自身が保有する資器材を駆使して救助活動を展開した一方で、送配電会社が保有する資器材の活用においても詳細な説明を受け、実際の現場での活動において選択肢の一つとなるよう実際に訓練に用いる姿も見られた。
検電器や移動ロープなどの専門資器材の説明を受ける隊員
鉄塔ワイヤー専用の接合金具が付いた「安全器」を取り付け、鉄塔の昇り降りを行う
比較的安定した体勢で、送電線上を移動するための資器材「宙乗器」
指導員が使用していた「ベルブロック」
これより先の通電を示す危険区画標示旗(表側には「危険」の文字入り)
万が一に備え、電気を逃がす役割を果たす乙種アース(作業用「接地」)
低鉄塔救助訓練
鉄塔での救助活動は、通常の高所作業時の危険性に加え、現場に残された宙乗器などの作業時の資器材が活動障害となる。
隊長は、高所での作業を行う隊員を俯瞰で観察するため、地上から各隊員の位置や作業に対し指示をするなど、地上と高所の連携を2隊それぞれが意識して活動を展開した。
作業員による「作業途中」の現場を再現するため、標示旗や作業員進入用足場(作業梯子など)をあらかじめ送配電会社社員が鉄塔に組み込んだうえで想定訓練を行った。危険標示や立ち入り禁止区域なども複雑に想定されたリアルな環境下で、手探りの救助活動を展開する
活動中の隊員は全体像の把握が難しい。隊長が全体の動きを管理する
低鉄塔といえども、その高さは約8mある。足場も視野も、頭で思い描いたものと実際の状況は異なり、なかなか機敏には動けない
動きながらアプローチを試す隊員に、適宜送配電会社社員がアドバイスをくれる
2種の想定を2隊それぞれに試行錯誤し、アプローチする。特殊かつ複雑な設備についての補足説明は、多岐にわたる
不安定な障害物となる耐張吊り碍子(がいし)の回転方向や、それを効率的に回避しながら乗り出すための足場設定用ロープの取り回しについて指導を受け、実践する
高鉄塔救助訓練
低鉄塔での訓練で基本的な流れを確認したのち、実災害を想定した救助隊2隊連携による高鉄塔の訓練を実施。低鉄塔での活動を生かし、20mほどの高さでの活動にも関わらず、無事、安全に要救助者の救助に成功した。
はしご車を使い、送電線に訓練人形を吊り下げる
高鉄塔でのより実践的な高さの訓練に2隊で挑む
地上から遥か離れた高所、しかも空中に細い送電線が1本あるのみというこの状況下で、恐怖感を打ち消すことはほぼ不可能に思える
限られたスペースを活用しながら上下に展開し、要救助者に接触を試みる
低鉄塔で習得した技術で、障害物となる碍子(がいし)を回避しながら進む
この高さになると、頭上での活動を隊長一人で観察するのは非常に困難である。上下左右の空間認知すら厳しいなか、作業のウェイトが多い隊員を注視しがちになり、周囲への注意力が散漫になりやすい
乗り出しの恐怖、難しさは思いのほか難関と感じたとのこと。また、救助ロープ側も送電線に乗り込む予定だったが、懸垂碍子に阻まれ急遽進入不可と判断し、救助プランを変更。ある程度のブリーフィングはしていくが、登ってみたら違う、そしてすぐ次の判断を迫られるという経験そのものが糧となった
※はしご車は訓練上での安全管理にて使用
今回のような自主的な官民合同訓練のかたちはまだ全国的にも珍しく、これが実現できたきっかけとしては、一般社団法人 送電線建設技術研究会 中国支部への講師派遣に消防が呼ばれたことに始まる縁の力でもあったが、その縁を引き寄せるにも、組織の内部から一声を上げ、官民を超えた「外」に対峙し目的を果たそうとする意志を関係者同士でしっかりとつないだこと、前例がないにもかかわらず、どの機関も協力を惜しむことなく、この規模の重要な訓練を実現させたことは特筆に値する。
この合同訓練で、異なる組織が保有する資器材について知識を共有し、互いの知見を確かめ合うこと、連携可能な体制づくりは現場での救助活動において大きな役割を果たすと実感を得た、特異的な事案だからこそ、実際に体験することに意味があり、特定の条件下において、より効率の良い方法などをあらたに学べる貴重な訓練となったと隊員たちも述べる。
地域への思い、組織、資器材、現場における環境課題についての思い、そして人命救助に対する思いをそれぞれの職務でつねに真剣に考える日々のなか、この訓練を通してまた一歩、地域の特性や課題に即した消防救助対応力の高まり、災害時における的確な行動、防災力向上をめざす姿勢に、より一層期待したい。
夕刻になり、およそ5時間にもおよぶ訓練が無事終了