2022.6.30
【第11回 ビレイ・バックアップについて考えよう】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
「1つのミスが命取り」?
現代では1つのミスで命が失われるような方法・体制は不十分である、というのが一般的な価値観です。人間はミスをするものであり、過酷な活動や強いプレッシャーのなかではなおさらです。そういった環境で活動し、最後の砦でもある消防組織では、こういった前提で備えておくことが重要ですね!
ロープを使った活動においては、ビレイやバックアップという形で馴染みがあり、いろいろな場面でいろいろな方法が用いられています。しかし、なかには実効性に疑問のあるビレイ・バックアップも見受けられます。皆さんのビレイ・バックアップは、どうでしょうか?
ぜひ、第3回(95号掲載)のコラムも参考にしてください。
エイト環によるビレイ
エイト環は1940年代に考案され、70年代ごろから普及した懸垂降下用の器具です。ロッククライミングのビレイにも使われるようになりましたが、ロープがキンクすることや、事故が多いことなどから、現在ではあまり使われていません。
いくつかのデータを参照すると、片手で制動できるのが1kN程度、両手を使っても2kN〜3kN程度の制動が限界とされています。ビレイロープにまったく弛みのない状況(落下率0)で落ちた場合、その衝撃値は体重の2倍程度といわれています。これはあくまで制動姿勢をとっている状況での数値で、ロープを繰り出したり引き込んだりしている瞬間はもっと制動力は低くなります。ビレイとして信頼するには、ちょっと数値が低すぎるのがおわかりかと思います。
もし、まだエイト環をビレイとして使われているのであれば、有効な資器材への移行をお願いします。ロープ黎明期に導入した大先輩たちも、後輩たちの進化・高度化を喜んでくれるはずです。
結索の端末処理
皆さんはロープ結索に端末処理・バックアップは行なっていますか?僕は必要に応じて「ダブルオーバーハンドノット」を用います。
「半結び(ハーフヒッチ)」や「ひと結び(止め結び、オーバーハンドノット)」は使用しません。これは、カラビナの掛け間違いが起きること(殉職事故も起きています)が大きな理由です。しかも、あんまり意味がないというのも大きな理由です。
端末処理を行う理由としてあげられるのが「緩み防止」や「解け防止」ですが、半結びやひと結びは非常に緩みやすく、強い力で引っ張れば簡単に解けてしまうというのは皆さんもご存知のとおりです。半結びやひと結びで結着したロープにぶら下がれますか?キツイですよね。こういった不確実な結索では、実際には前述したような効果は得られません。
ちなみに、エイトノットは端末処理がいらないと思われがちですが、僕はエイトノットにも端末処理が原則必要だと指導しています。(理由は講習にて…)
フィックス線に3人
1本の親綱(フィックス線)に3人で自己確保をとっているケースがありました。せっかくフルハーネスを着て墜落制止用ランヤードを使用していても、誰かが落ちると全員巻き込まれる恐れがあり非常に危険です。
法令でも1スパン1人が原則ですので、気をつけましょう。
隊員の下、担架の下
僕の主宰する縄救大会や、さまざまな訓練会でも見かける怖いシーンです。ロープでぶら下がっている隊員や担架の下に立ち入ったり、下に続く形でロープ登はんしたりする行為です。これは、上方のメインロープが崩壊した場合、下方の隊員の頭上に人間や担架が降ってくる状況です。一人ひとりのビレイシステムは完璧でも、重大な災害のリスクがあり、ビレイなしの活動とあまり変わらなくなってしまいます。
担架や隊員の直下は危険ゾーン。入ってはいけません
ビレイ・バックアップの考え方
1これらは「2つとること」が目的ではなく、「メインが崩壊した際に、その代わりになって、重大災害を防ぐこと」が目的です。たとえば、救助隊長が休みをとった穴に新人をあてませんよね。屋内進入する際に屋外で待機する要員に、新人は選ばないはずです。原則としてメインと同等か、可能ならそれ以上の能力がなければいけません。不適切なビレイ・バックアップは役に立たないだけならまだしも、ほかの危険を発生させてしまう場合もあります。
墜落制止用器具が原則フルハーネスとなり、ショックアブソーバーが義務付けられているのも、「地面に落ちないこと」ではなく「落ちるという現象でケガをしないこと」が目的だからです。
ロープレスキューや高所活動においては、非常に良い資器材が出回るようになり、この10年くらいで格段に安全・確実・簡単になってきています。消防資器材のなかではそれほど高価な部類ではありませんし、労働安全衛生法令の改正もありましたから、ぜひこの機会に見直していただければ幸いです。
office-R2では、こういった資器材選定のお手伝いも行っています。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、部活では登山やクライミングに没頭した経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令や消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」や「日台消防交流会」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm~11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠した活動を提案する講習。レベル1~2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
お問い合わせ090-3989-8502
ホームページhttps://r2roperescueropeacce.wixsite.com/office-r2