2022.10.27
【第13回 資器材のお手入れをしよう!】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
皆さん、ロープレスキューの資器材をメンテナンスしていますか?サビサビのハーネスやギシギシのカラビナを使ったりしていませんか?
今日は資器材の洗浄や整備の方法を紹介してみたいと思います。
基礎中の基礎ですが、メンテナンスするにあたっても、取扱説明書にある注意事項を読むのは必須項目です。もちろん、取扱説明書の内容を暗記している人は読まなくても大丈夫です。
繊維製品(ロープ、スリング、ハーネスなど)
【取り扱いの注意】
まず、繊維製品の忌避事項は化学薬品(酸やアルカリ)、紫外線、高温です。たとえば、工場や建設現場のような場所では液体や粉塵の性質に注意が必要です。火山地帯など自然由来の化学物質にも注意が必要ですね。日中の直射日光はおそらく皆さんの感覚よりはるかにダメージは大きいですので、とくに訓練時は可能な限り資器材に毛布やシートをかけて守りましょう。真夏のアスファルトなどに直接ロープを触れさせるのはNGです。
僕は「人間の皮膚の薄い部分に触れさせられないようなものはアウト」と指導しています。酸やアルカリにしろ、日焼けにしろ、人体なら放っておけば治癒しますが、資器材のダメージは蓄積されていく一方です。女性や子どもの肌だと思って扱ってください。
【洗い方】
シグナルでも取り扱っているPETZL(ペツル)とClimbing Technology(CT)の取扱説明書には、いずれも30℃未満の水と中性洗剤で洗浄し、30℃未満の環境で陰干しすることが明記されています。なお、PETZLについては「家庭用の洗顔石けん・ボディソープ」を指定しています。
僕は有名なおしゃれ着洗い用の液体洗剤(中性)と、柔軟剤を使用しています。泥汚れなどがある場合はタワシやブラシでピンポイントに洗います。ハーネスのD環基部などはキッチン用の細長いブラシで洗うことができます。ロープはロープ専用のブラシもありますので探してみてください。
洗濯機を使う場合は厚手のネットに入れるか、ネットを二重にして、ソフトモードを選択してください。脱水はせずに取り出してください。
乾燥は乾燥機と天日干しは絶対NGです。風通しの良いところで陰干ししましょう。扇風機で風を当てるのも良いですね! ロープは乾燥まで数日かかることがありますが、エアコンをかけた室内だと早く乾きます。なお、高圧洗浄機の使用は禁止されています。
金属製品(カラビナ、プーリー、下降器など)
【取り扱いの注意】
基本的に繊維製品と同じです。紫外線の影響は受けにくいですが、酸やアルカリ、湿気による腐食についてはより注意が必要です。海辺での活動などは要注意ですね。
【洗い方】
これも基本的に繊維製品と同じです。接合部や隙間に、油と混ざった埃や砂塵が詰まっていることがあります。少し硬めのブラシで念入りに洗ってください。どうしてもしつこい場合は食器用洗剤を使ったりしています。
【オイルアップ】
金属製品ではオイルの塗布や注油が必要になる場合があります。PETZLもCTもシリコンオイルを使用するように指示しています。シリコンスプレーは石油溶剤を使っていない「無溶剤」を使用してください。僕はベタつきの少ないドライタイプを使用しています。
繊維製品のなかにもハーネスやアンカーストラップのように、金属部品を使用しているものがあります。これらについてもウエスで塗布したり、細部は綿棒を利用するなどしてください。
表面の塗布については、鉄製部品の塗装が剥げたときや、塗装にされていない製品については積極的に実施すべきかと思います。それ以外については埃がついたり、手が滑るリスクを増やしますので、あまりおすすめしません。また、使用するオイルについて、下記の製品には注意が必要です。
- 鉱物系オイル(5-56など):
- プラスチックを侵す恐れがあります。カラビナなどの製品は内部に小さなプラスチックパーツを使っている場合もありますので、使用しないようにしましょう
- 脱脂系洗浄剤(WD-40など):
- 細部に浸透しますが脱脂してしまいます。とくにプーリーなどの寿命を削るおそれがあります。PETZLは名指しで使用を禁止しています
消毒について(コロナ対策)
コロナ対策として、各社は以下のような方法を提示しています。
PETZL
- ❶72時間の隔離期間をとる
- ❷中性洗剤と水(最高水温65℃)での手洗い
(注:例外的な措置)
CT
- ❶換気の良い場所で、25℃以上の換気温度で少なくとも7日間隔離
- ❷中性石けん(重量で石けん1:水49)を使用して、40°C〜50°Cの湯で手洗いし、少なくとも15分間、きれいな水で十分にすすぐ。数回であれば実施しても良い
なお、アルコールやオゾン消毒について例示しているメーカーもありますが、繊維製品の場合、毎週の実施で製品寿命は半分とされています。コロナに限った話ではありませんが、必要性のない現場に持ち込むことで、汚損のリスクや消毒の必要性を増すことになります。必要であれば躊躇なく使用すべきですが、適切に判断することが大切です。
資器材を洗浄するときは点検する良いタイミングです。日常の点検では見落としていたような損傷や劣化がないか? 作動に不具合がないか? など、落ち着いて点検してください。訓練でハードに使ってきた資器材はもちろん、新しい資器材でもちょっとした失敗で損傷していることも珍しくありません。点検方法は次の機会にしたいと思いますが、資器材の点検マニュアルも公開されていますし、プロフェッショナルとしてしっかり管理能力を磨いていただければと思います。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、山岳部などの経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令を踏まえつつ消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm〜11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠しつつ、現場に即した技術を重視。高所作業や競技の技術ではなく、消防活動におけるベストを提案する講習。レベル1〜2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
お問い合わせ090-3989-8502
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