2023.4.10
【第15回 ロープレスキュー競技会レポート 縄救 2023】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
先日、私が発起人として続けている大会「縄救」が開催されました。この大会はロープ救助を始めたばかりの受講生たちの腕試しの場として、2016年にスタートしました。今回で8回目(2回開催した年を含む)となり、国内でも長い歴史を持ちます。うれしいですね。
読者の皆さんはご存知かと思いますが、私はスピードやロープ技術の良し悪しよりも、要救助者看護や安全が徹底されることが大前提だと考えています。スピードはあとから追いついてきますし、技術はだんだんと洗練されていきますが、身軽になるために捨てた要救看護や安全(意識)はあとから拾いに行くのは非常に難しいからです。そういった意味で、国内外の大会と比べると想定や評価方法に独自のコンセプトを持たせているのもポイントです。
- 開催日
- 2023年2月7日(火)~2月8日(水)
- 開催場所
- はままつフルーツパーク時之栖
- 参加数
- 10チーム
資器材点検
まず、最初に参加者のすべての資器材を点検します。これは海外の大会でも行われていて、おもな目的は不安全・不適格な資器材がないかどうかの安全管理です。しかし、他チームではどういった資器材が使われているかを見知ったり、おろそかになりがちな安全点検を行う非常に有意義な時間だと考えています。今年もいくつかのチームが不適格な資器材を没収されたり、指定部品の欠損を指摘されて出店で購入していました。点検大事!
第0想定登はん競争
競技順を決めるための登はん競争(約7m×7名)です。とくに難しいルールはありません。ロープ登はんには胸部アッセンダーで登る方法(通称クロール登はん)と、下降器具で登る方法(通称アイディ登はん)があります。この高さでは通常、登った先で昇降の切り替え(チェンジオーバー)が必要にならないアイディ登はんが有利になります。
あるチームは摩擦の少ない下降器「クラッチ」を使用し、そのクラッチを使い回すことで選手交代のタイムロスを最短にする工夫をしていました。これは取り付け時の誤設定のリスクを1/7にできますから、安全な方法ということもできます。
もっとも速かったチームはクロール+ロープロケット登はんという、登り専用の道具をたくさん使う方法でしたが、登る速さもさることながら、切り替えが非常に速く、好タイムに結びつきました。
一方、課題として、ほとんどの方(少なくとも私が見た全員)がバックアップ器具(ASAP)の取り付け確認(動作確認)を行なっていませんでした。(声だけは「取り付けヨーシ!」って出していましたけど。)これは取扱説明書にも法令にも指示がある手順です。のちのすべての競技でも同じで、非常に残念でした。(うちの受講生にはそう教えたはず!やり直し!)
第1想定転落要救(医療)
想定は池の法面(のりめん)を転落した要救助者が腰部痛を訴えてきます。斜面は緩いため自己確保のみで行動が可能です。
この想定ではバックボードはこちらが用意しましたが、それ以外はチームの備えで対応していただきました。ニトリル手袋はもちろんネックカラーや酸素を持参したチームもあり、非常に良かったと思います。要救助者には想定が付与されており、所定の全身観察が実施されればショックの所見が伝わるようになっていました。ただし、革手袋のまま観察した場合はそれを伝えないように指示していました。また、ほとんどのチームが3名でのログロールを実施したことは、大きな進歩かと思います。
1系統で問題ない緩い斜面ということで、引き上げ自体は非常に容易でしたが、簡単すぎて逆に混乱するチームもありました。要救助者に2系統目まで設定したチームもありました。個人的にここでは不要だったと思いますが、その割にタイムもそこそこ速く、普段から2系統が習慣化できていることは評価されるべきだと思いました。すばらしいです。
第2想定宙吊り救助
2本の大柱の中間に宙吊りになっている要救助者を救出せよ、というものです。「2本の柱の中間」ということでミエミエのハイライン課題。模範解答としては、高めにハイラインを張り込み、要救を取り込むだけでした。担架の使用と介添は自由というお得課題。
しかし、実際には半数のチームが天井裏の鉄骨を伝って要救をめざす、エイドクライミングに挑みました。これはスタッフ勢にとって大きな想定外でした。エイドクライミングは個人の能力でスピードが大きく変わり、その間はほかのチームメンバーは待機になります。今回も、ハイラインやクロスホールを選択したチームが早々に完了し撤収するなか、要救への接触すらままならないチームが目立ちました。当初、「ショボすぎて時間余りそう」と相談していた課題が、まさかの足切り実施となりました。
この想定は要救助者には徒歩で接触できませんが、近くまで歩いて行くことが可能です。柱と柱の行き来も自由としていました。エイドを選択したチームの多くは要救の近くまで行って声かけ・聴取をすることなく、対岸の柱へも偵察に行っていませんでした。頭のなかでエイドと決めつけてしまったため、想定の内容を上書きしてしまったようです。想定の意図を読めないのも競技上の痛手ですし、思い込みで視野が狭まるのは実災害でも大きな問題です。個人的にはかなり重く受け止めました。
近年、ロープアクセス講習が非常に人気を集めているほか、体育館で自主訓練する姿をよく見るようになっています。使いどころを教わらず、十分に習熟しないまま、手札として持っているのではないでしょうか? 先日とある消防と合同訓練した際も、訓練塔のような構造物から1人降ろすだけの想定で、上部支点にエイド状態でぶら下がり、長時間の活動になっていました。チームメンバーのアクセス技術は大切です。しかし、チーム戦術がアクセス技術に飲まれて崩壊した様子を見ると、非常に大きな問題が起きているように思いました。
また、エイドクライミング中の隊員が動けなくなると、非常に難易度の高い救助活動が必要になります。皆さんは仲間が動けなくなったとき、対処できるのでしょうか? 私は自分が体育館でエイドをしている間、80mの崖上より緊張を感じます。訓練するときは安全な環境で、使い道を整理して習熟していってください。アクセス系の指導者にはワザを教える・資格を広めるだけではなく、技術の位置付けやリスクについても指導してほしいと思います。
第3想定中州救出
橋脚の基部で寝込んだ泥酔者が、増水で戻れなくなったという想定です。降下進入し観察、対岸の車両を支点に斜めブリッジを張り込み、持ち上げたあと斜降下させて救出というものです。
まず、この課題で要救はハーネスを着ていません。災害現場で要救がペツルのハーネスを着ている可能性はほぼ0ですので、この想定が基本だと考えています。要救助者用のフルハーネスや胴ベルトを準備していたチームが4つあり、非常に良かったと思います。残念ながら、要救に確保を取らずに引き上げたチームも4つあり、失格となりました。そろそろ、要救用のPPEを準備することはロープレスキューのスタンダードにしたいと思っています。
想定では「川は増水し激流」ということでしたが、ロープを川につけてしまったチームがあり、このロープを没収されるペナルティを受けました。欲張らずロープを順番に渡すことや、下部の隊員の作業量をどう減らすかがポイントでした。(office-R2の講習ではハイラインのロープが下(川)につかないように手順を組んで渡していきます。)
車両支点についてはエンジンオフ、サイドブレーキ、ドアロックなど徹底されていましたが、エンジンがかかったまま支点にしてしまったチームもありました。ハイブリッドカーなどアイドリングストップ機能の盲点ですね。また、すべてのチームが車両を横向きに使用していましたが、安全上も車両への影響上も、推奨できません。縦向きに使用すれば分散支点を作る必要もなくなりますから、タイムも圧縮できたと思います。これは各チーム再確認していただきたいです。
第4想定吊り橋登はん
おそらく参加者には想定外だったと思いますが、2回目の登はん競技を30mの吊り橋で実施。通常の登坂レースと違い、プルスルーアンカーでの支点作成、ロープの設定、養生の設定など、実践的な活動を要求しました。
こちらの狙いどおり、養生と支点作成に非常に苦慮する様子が見られました。すべてのチームがエッジパッド(布シート)を使用していましたが、対象が鉄骨ということもあり、金属製の養生器具などを使用していただきたかったです。耐切創性の高いエッジマットを所有しているチームもありましたが、狭い幅のため、設定に難儀しているように見えました。
登はんについては個人差が大きく、事前の訓練の成果を感じる方も多かったです。苦労している方はハーネスの着装が甘く、ハーネスのなかで身体が動いていて体力をロスしている方が多かったです。(正しい着装を学べるoffice-R2講習へどうぞ!)
30mの高さを怖いという方も何名か見受けられました。それが正しい感覚です。要救助者はもっと怖いし不安ですので、その気持ちを忘れないでいてほしいですね。
第5想定30m引き上げ
当初は体力負荷やそのほかの負荷想定をマシマシにする予定でしたが、時間が押してしまったので簡略化し、単なる引き上げ救助として実施しました。ただし、精神的に不安定な要救助者を安心させるため「常に介添隊員が手を握っていること」という条件を設けました。
ロープレスキューの訓練や大会において、要救助者役は人形か身内であり、精神的なサポートはまったくと言っていいほど顧みられることはありません。そのため、介添隊員は要救ではなく、あくまで担架が支障なく進行するサポート係と化すことが多いです。今回の条件は、要救助者に意識を注いでいただけたのではないかと思います。
あまり広くはないスペースで、さまざまなシステムが設定されました。3倍力システムでパワー!! のところが6チーム、5倍力が3チーム、10倍力というところもありました。エッジ養生が不完全なため、1名をその監視役に置くことになり、引き手が足りずに苦労しているところが多かったように見えました。地味な作業を一手間加えることで、その後が楽に早くなったように思います。「うさぎとかめ」ですね。
最後の引き込みは手すりを越える必要がありましたが、担架にせっかくAZTEKなどの高さ調整機能がついているのに、ゆるんだままパワープレイで越えさせようとすることが多かったです。これも「うさぎとかめ」ですね。不要なパワープレイは要救助者の心身を動揺させますので、クールにスマートに、こなしていただきたいものです。
評価について
今回もコントローラー(各チームからの採点者)による評価制をとりましたが、コントローラーの甘さ辛さのばらつきで点数が乱高下してしまいました。外から見ているスタッフの感覚とは少しズレのある結果となり、もう少し改善や洗練が必要だと感じました。これは運営側の調整不足で、申し訳なく思います。
全体を通して
今回も強く感じたのは、ロープレスキューの技術が高まり、裾野が広がって、初心者チームといえど10年前では考えられないほど高いレベルとなっていることです。結成1年のチームが、30mの登はんや引き上げをこなせるというのは感慨深いものがあります。だって、縄救が始まったときはアイディとプルージック、チェストアッセンダーなしでしたからね! すごい進歩です。「ロープレスキューは難しい」「複雑だ」というような話は遠い昔のことだと思います。頑なにロープレスキューを学ぼうとしない人も多いですが、そろそろ参入してみれば良いと思います。救助大会の2割くらいの取り組みで、そこそこ成り上がれますよ。
参加者の皆さんが数十万円の資器材を揃えて、休日こういった訓練をしていることは非常に尊いことだと思います。だから誰かより偉いということではありませんが、非常に誇らしく思います。
一方で、テクニックに弄ばれたり溺れたりしてしまう、普段の救急活動でやっていることが飛んでしまうのは、まだまだ改善していただく必要があるでしょう。趣味スポーツとしてのコンペではなく、災害対応のために、ぜひ意識していただきたいですね。
運営としてもまだまだ想定作成や進行に反省点があり、次回への宿題をたくさん抱えて終わった気がします。ぜひ、来年もやりましょう。開催地の立候補は毎年受け付けていますので、よろしくお願いします。九州とか東北とかもお待ちしております。
最後に、今回も多くの協賛をいただき、選手全員に賞品を配ることができました。あえて書きますが、各企業・団体さんにとって費用対効果が見合っているかは疑問です。大会参加者の買い物で出た利益よりも、いただいている協賛品の方がおそらく多いということです。それでも参加者の皆さんを応援してくれた企業・団体さんがいることを、心のどこかに留め置いていただければと思います。また、今回は一般の方のスタッフ参加が最多となりました。消防職員スタッフの皆さんも非常に精力的に活動していただきました。あらためて、多くの方々の応援と期待を受けていることを感じました。参加者を代表し、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
協賛(五十音順/敬称略)
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、山岳部などの経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令を踏まえつつ消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm〜11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠しつつ、現場に即した技術を重視。高所作業や競技の技術ではなく、消防活動におけるベストを提案する講習。レベル1〜2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
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