2023.6.28
【第16回 ロープレスキュー競技会レポート GRIMP JAPAN 2023】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
前回に引き続き、今回もロープレスキュー競技会のレポートをお送りさせていただきます。すでに多くの媒体でも取り上げられているGRIMP JAPANですが、この大会は名実ともに、日本を代表するロープレスキュー競技会です。規模、内容、国際的な知名度をふまえても、世界レベルといえるでしょう。そのうえで、大会を見学した大西の目線で、この大会をレポートさせていただきます。
- 開催日
- 2023年3月17日(金)~3月19日(日)
- 開催場所
- 徳島県三好市
- 参加数
- 24チーム(うち海外5チーム)
想 定
突きつけられた雨天対策
最初に見学したのは、学校のグラウンドを舞台にした斜めブリッジの課題でした。前日から続く雨のなかで、多くのチームが悪戦苦闘していました。雨天での活動や、土の上での活動を想定していないチームは、ぬかるんだグラウンド上に直接、ロープバッグや資器材をおいてしまい、その後の活動を非常に困難にしていました。また、ロープバッグや資器材バッグがメッシュ素材や非防水性素材のチームも多く、上から雨水、下から泥水を吸って悲惨でした。
水を吸ったロープはコントロールが難しくなるほか、重量も重くなります。泥まみれのロープは「やすり」のように資器材を損耗させます。安全性はもちろん、連続した活動では大きな障害となります。資器材を泥まみれにしてしまったチームが、貴重な休憩時間に洗浄する姿も見られました。2日間に10想定するわけですから、競技的な視点で見ても、避けたいトラブルでした。
一方、とあるチームは防水シートを敷いた上に資器材を整理し、ロープもグラウンドに接地させないよう注意を払っていました。このチームは雨天での訓練経験もあり、普段から整然とした美しい活動をする印象がありましたので、納得の所作でした。ブルーシートを準備しているチームもありました。
当たり前ですが災害は雨や雪のなかでも起きますので、そういった環境で戦う準備やイメージが必要です。また、「資器材愛護」というのは単なるスローガンではないということが示されたように見えました。
スケールの大きな課題に
どう向き合うか
60mを越えるハイライン(中州救助)の課題では、チームの技術や経験だけでなく、チームの安定力が試されたように感じました。この課題はスケールが壮大で、どうしても設定に時間がかかり、タイムを気にしながらの活動となったと思います。そのなかでは、落ち着いて自分たちの活動をできるかどうかが、結果に影響をしたように見受けられました。
このハイラインは斜め勾配になっていて、隊員の中州への接近時は斜め進入の状況になります。コントロール線の失敗時に滑走を防止するためのバックアップとしてASAPを使用したチームがあり、私の見学中に3チームが、スピード超過によりASAPを作動させてしまいました。なかにはASAPの解除にかなり手間取るチームや、ASAPの解除を後回しにして、降下・引き揚げルートが活動困難エリアに入ってしまい、不安全でロスの多い活動になったチームもありました。ASAPを使用する際には速度に注意が必要なだけでなく、そもそもそれほどの速度で移動させること自体が不安全行動であることは理解していただきたいと思います。半分の速度で進入させても30秒も変わらないわけですから、急ぐポイントを見誤らないことです。
また、スケールの大きさから普段とは違うシステムを土壇場で採用し、うまくいかなくて時間切れになったチームもありました。
一方で、あまり経験豊富とはいえないチームでありながらも、普段どおりの活動を堅実に行い、救出完了に結びつけたチームもありました。ロープの受け渡しを焦らず時間をかけても数本ずつ行ったチームもありました。距離が遠いので、たくさんのロープを一挙に受け渡すと逆に手間取ったり、ロープが絡んでしまうことも多いので、着実な活動が成功のキーといえるでしょう。
もうひとつ、とある欧州製の下降器具を引き揚げ時のバックアップに使っているチームがいくつかありました。この器材のバックアップとしての使用は120kgまで、2名荷重でのバックアップには使用不可と記載されています。メーカー公称値を越えると性能が担保されませんし、訓練だからこそ確実な資器材選定が必要ではないでしょうか。
シナリオを見る、状況を見る
川辺の斜めブリッジの課題は上部支点がガードレールで、担架をガードレールの向こう側へ収容する必要がある課題でした。簡単そうに見えて結構難しいと思います。とあるチームは、チームを上下で分けて活動していましたが、この担架収容がどうしてもできずに時間切れとなってしまいました。実は、この課題は上下の行き来が自由で、担架の収容を全員のパワーで押し切ることも可能でした。
大きな橋の上での課題も、担架を橋の下に通すという想定でしたが、橋の構造体の内部を通す(難しい)必要があるのか、橋全体の下部を通せば良い(簡単)のかで、チームによって難易度が大きく変わったようです。
河原の自然地形での課題でも、岩場の簡単そうなラインを引き揚げるチームと、なぜか最初に決めた引き揚げラインに固執して、パワフルな(しかし不安定な)活動になっているチームが見受けられました。
これらは想定付与された際や活動方針を決定した際に、思い込みや経験則から自分たちに余分なルールを課してしまったり、視野狭窄、一度下した判断を変更できないバイアスの類といえます。これは個人の経験値だけでなく、冷静に落ちついて俯瞰的に判断できる能力も影響します。
もちろん、臨機応変に戦術を修正したチームや、俯瞰的にベストな救助方法を判断したリーダーも見受けられました。素晴らしい活動でした。
もっと評価されてほしいチーム
今回、海外勢を含む複数のチームに、救出完了できなかった課題があったようです。一方で、それらのチームより順位が低かったものの、全課題で救出成功したチームがありました。エッジ養生(ロープ保護)にコルゲート管を使用した際、エッジパッドを併用し安全性を確保するなど、丁寧な活動が見てとれました。私はそういうチームにこそ、心から称賛を送りたいと思います。ここまで触れてきたとおり、突出した技術や経験がなくても、落ち着いて、堅実にこなしていくことは非常に重要です。極限までシンプルさを追い求め、一か八かの活動は確かに速くなります。しかし、致命的な結果が待つ分岐点も多くなります。そういった危うさを目の当たりにする場面もありましたし、ここであえて書く必要があると思いました。なにより、やはりすべての要救を救助できたチームが一番エライと思うのです。
また、同じ職場で結成されているチームにも、心から称賛を送ります。決して「理解ある職場」というイージーモードだったわけではなく、諸先輩を含めて積み上げて、勝ち取った理解だと思います。日本のロープレスキューの一番のハードルは、技術力ではなく、職場でそれを運用することですから、多くのロープレスキュアーの模範といえるでしょう。
ロープレスキューは大きく裾野が広がり、もうボトムアップの段階に入り始めたと感じています。一方で、消防救助活動としての医療ケアという観点についてはもっと重要視されるべきだと思いますし、ロープと各種救助技術(破壊活動や消火など)のマッチングも取り組んでいくべきタイミングになったと感じています。これからの5年間10年間で、ロープレスキューは更なる発展を遂げることと思います。読者各位にあっては、取り残されないよう、今からでも一歩、さらに一歩、踏み出してください。
最後に、GRIMP JAPAN 運営および参加されたすべての関係者の皆さま、お疲れさまでした。来年も素晴らしい大会になることを期待しております。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、山岳部などの経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令を踏まえつつ消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm〜11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠しつつ、現場に即した技術を重視。高所作業や競技の技術ではなく、消防活動におけるベストを提案する講習。レベル1〜2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
お問い合わせ090-3989-8502
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