2024.7.1
【第20回 ハイラインレスキューと 三つ打ち救助】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
近年はロープレスキュー技術の普及と器材の発達により、初心者でも非常に高いレベルのシステムを使って活動するのが当たり前になってきました。素晴らしい進化だと思います。
一方で、競技会や訓練会を見ていると、想定に不適なシステムを選択してしまったり、そもそも決定したシステムの構築がままならずに失敗したりするシーンを見かけるようになりました。
それらの解決策や対応策は、救助操法や三つ打ちロープでの救助技術で普通に行われるようなもので、訓練や教養の噛み合わせがうまくいっていないように感じます。今回はそういったところを書いてみたいと思います。
届かない救命索
多くのチームが苦戦するのが、ハイライン(ブリッジ線)のロープを渡すためのスローライン(リードロープ、救命索)の投てきです。どの大会を見ても、ラインが絡まる、対岸に届かないといったトラブルを見かけます。
ラインが絡まるのはほとんどの場合、投げる前にラインの整理をしていないからです。近年のスローラインは絡まりにくい良い製品が出回っていますが、さすがにバッグの中で搬送されてきて、取り出して即使えるものではありません。
救助大会での「障害突破」では同様の活動が行われますが、リードロープは8の字などでキレイに整理した状態から投げると思います。救助大会訓練で問われる大事なことは、ロープレスキューでも同様だと思います。
50mのラインを整理するのに必要な時間は1〜2分です。その際にラインが絡まっていたら整理に時間がかかりますが、もし気づかずに投げていたらもっと大惨事になっていたわけですから、むしろラッキーです。時間をかける場所、端折る場所を間違えないことです。
スローライン投てきの際は腰回りの整理も重要
また、そもそも投げる練習が不足している場合もあります。スローパウチ(弾頭)の「野球投げ」も否定はしませんが、せっかくの資器材を使いこなせていないのはもったいないです。少なくとも届かない、明後日の方向に飛んでいってしまう場合、やはり一度ちゃんと勉強して練習してみることです。イングリッシュだとかフレンチだとかより、先ですよ。
リードロープを使って3本、4本ものロープを一挙に渡そうとする方も多いですね。これは大失敗につながりやすいので、まずは1本、多くても2本を張ってから、それをガイドに残りのロープを渡すように指導しています。
ロープレスキュー=
アンカープレートではない
川や海など、ハイラインの距離に対して高さが低く、着地・着水しないような工夫が要求される想定も、しばしば苦戦されています。多くのチームが担架を一箇所吊りにし、アンカープレートを使い、場合によってはクラッチやリービングラインまで仕込んでいます。高さを稼がないといけないのに、何かしらの先入観からブリッジ線と担架の間にギアを盛ってしまって、行き詰まってしまうのはもったいないですね。
こういう場面では担架を「水平二箇所吊り」にすることによって高さを稼ぐことができます。小綱にフューラー、平担架ベテラン救助隊員ならきっとご存知、昔は各地の救助科でやっていたアレです。「水平二箇所吊り」は、渡過時に高さを稼げるだけでなく、担架の動揺を抑えられ、風や枝などの障害にも強いメリットがあります。これに関しても、横文字のシステムに飛びつく前に、しっかりマスターしておきたいですね。
テンプレートな一箇所吊り。シンプルだが動揺が大きい
資器材の高さだけでなく、V字が解消されることで高さが上がる
常用しているブライドルにこだわらず、テープスリングなどで柔軟に
泥臭い訓練を嫌がるな
想定を突破していくチームもたくさんあります。とあるチームは滑車すら使わず、担架をカラビナ直掛けで救出しました。アテンドは同じくチロリアンで担架をサポートしていました。「ロープブリッジ救出」そのまんまですね。
ロープを3本張ったチームもありました。2本より3本、3本より4本張れば、高さは稼げます。一昔前は「高さが足りない場合、張り込みよりもう一本のロープ」と言われたものです。
そのシステムに冗長性はあるか?
そもそも、川や池の上を渡すハイラインレスキューにおいて、水面ギリギリを通過する設定は「二系統」と言って良いのでしょうか? もし、テンションライン(展張線)のうち1本が切断された際、担架が落水(水没)してしまうのであれば、それは極めて危険な状況です。3本目や4本目を設定して初めて「二系統」が成立すると考えなければいけません。また、プーリー等のバックアップとしてクイックドローやASAPを利用する場合、それにぶら下がるハメになっても、落水しない高さが前提条件となります。
これは、たとえ訓練や競技会であってもシビアに捉えねばならないリスクです。地面に落ちても5mくらいなら死なずに済む可能性が高いですし、多少の制動があれば怪我しませんが、水没の場合はゆっくり発生しても命を奪います。そして、ロープレスキュー装備の我々は、泳いで助けに行くことは不可能です。実際、欧州の国際大会ではシステムの失敗で担架が落水し、潜水装備で待機していた安全管理スタッフにより救助されています。
下方の水面が止水面である(流水ではない)場合、担架にフロートをつけたり、介添隊員と要救助者にPFD(救命胴衣)を装着することで、二系統目と考えることも可能かもしれません。以前の沖縄の大会では、この対応を行ったチームがあり、非常に感心しました。
今回挙げたような「それ、救助大会とか三つ打ちだとやってますよね?」という場面は、ハイライン以外でもしばしばあります(カラビナの向きとか)。現在のロープレスキューは、三つ打ちロープのような旧来型の技術が、世界中でブラッシュアップされてできあがったものです。ああいう技術を古臭いと見る向きもありますが、近代的なロープレスキューにも通じている部分はたくさんあります。あれだけ三つ打ちに打ち込んできたのに、そこで得たものがリンクされないのは本当にもったいないです。
みなさんの活動を見られたときに「三つ打ちロープでも救助できた」「むしろ三つ打ちの方が」「やっぱり三つ打ちが基本」な〜んて言われないためにも、基本的な手技や知識をしっかり押さえて、ステップアップし、適切な戦術の選択をすることが重要です。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、山岳部などの経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令を踏まえつつ消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm〜11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠しつつ、現場に即した技術を重視。高所作業や競技の技術ではなく、消防活動におけるベストを提案する講習。レベル1〜2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
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