2018.4.16
命の絆No.53 ブルネイ ダルサラーム国消防
命の絆 消防ヘルメット
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。
時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が、彼らを突き動かせる。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。
「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。
No.53 ブルネイ ダルサラーム国消防
西ドイツ製 FRP ヘルメット
3カ国の領土を持つ東南アジアの島、ボルネオ島北部に位置するブルネイ・ダルサラーム国(通称ブルネイ)は、北側は南シナ海に面し、陸地はマレーシアに取り囲まれている。イギリス連邦加盟国であるブルネイは、石油・天然ガスなどを日本へ輸出する親日的なイスラームの王国であり、首都はバンダルスリブガワンで、人口約40万人、面積は5,770平方キロメートル(三重県とほぼ同じくらいの面積)である。
1888年、イギリスがアジア進出に乗り出した際にブルネイは保護領となり、1906年には植民地化された。1929年には地下資源の石油が発見され、マレーシア経由でイギリス本国へ流通されている。この時代の1920年、イギリスの消防制度を模倣した警察組織内での一部門として、36人の男性によるブルネイの消防の歴史が始まる。
第2次世界大戦が拡大すると、日本陸軍が1941年12月16日にブルネイを占領する。ブルネイを統治した日本は、これまでのイギリス植民地政策とは違い、道路建設や水道・通信などのインフラ整備、各種族の交流、教育、職業への従事など現地住民の生活向上に尽力した。その結果、ブルネイ国民は総じて親日的であり、その後の交易においても良好な関係が続いている。(ブルネイの天然ガスの総輸出量の約9割が日本へ向けたものである)しかし、終戦後には再びイギリスの支配下となり、1959年に憲法を制定したもののイギリスの自治領であることは変わらず、1984年1月1日に晴れて独立国家となる。
憲法を制定した翌年の1960年1月1日、「ブルネイ・ファイアー・サービス」の名称でブルネイの消防は新たな一歩を踏み出すが、このときはまだ男性のみの組織編成であった。1987年、女性の社会進出の場として45人の女性消防職員を採用。主に火災予防・広報・総務を担当しているが、緊急時には災害現場への支援隊として出場するための訓練も欠かさず、今日に至っている。そして2006年3月9日、イギリスのカウンティ消防体制に倣い、「ブルネイ・ファイアー・アンド・レスキュー・デパートメント」(BURNEI FIRE AND RESCUE DEPARTMENT)と名称を新たにし、チュートン、ベラカス、スリア、ラムニン、バライなどに17消防署所を展開。消防職員1,460人の規模となる。
高層ビル火災、ブッシュ火災、ジャングル火災、交通事故、水難事故、台風や高潮対策など、活躍する場は多岐に渡る。なかでもブルネイ川のカンポン・アイールという水上の大規模集落には4万人弱が居住しており、官公庁、警察、消防も拠点を置く。水上の村でありながら火災が多く、水陸両方での救助・救急を重要任務としており、消防車両は各種近代車両を配備。(自転車消防もある)参考までに、ロイヤル・ブルネイ空軍のランバ基地空港には2両のエアポート・クラッシュ・テンダー(化学消防車)が配備されている。
紹介する白色のヘルメットは、一体成型FRPの帽体に金属製コムを取り付けた西ドイツ製のもの。帽体の両側面に各3カ所の通気孔を持つ。帽体前の庇には飾り金具のようなバンドを配し、あご紐とライナーは皮革製で暑熱の国ならではの高温対策用の帽体内仕上げとなっている。
ヘルメット正面の紋章は金属製レリーフで八稜星の中に2本のハンマーを交差させ、中央にファイアー・トーチをセットしたデザインとなっている。一見すると、消防行事や王室関係のパレードにも用いられるかのごときヘルメットだが、本来の消防業務で日常的に使用されているものであり、1995年9月21日に行われたJICA消防研修に太平洋圏、南米、西インド諸島等多数の国より参加された方から、盾など一緒に贈っていただいた記念品の一つがこのヘルメットなのである。
以前のブルネイでのエマージェンシーコールは火災994、救急・警察は999とイギリスと同じ「ナイン・ダブルナイン」と呼ばれ、イギリスに外交を委託していた時代の名残が感じられる。-なお、現在は消防(火災)は995、救急は991、警察は993、救助は998 に変更されている。
特徴的なデザインにはさまざまな機能が秘められており、頭部保護という同じ目的を持ちながら国によっていろいろなパターンを見ることができる。
そもそもヘルメットは軍事用として誕生し、古くから頭部に直接加えられる打撃力を減少し、直接的な負傷を防ぐことに重きがおかれてきた。後に用途ごとに進化を続け、使用される環境によって求められる性能やそれに伴う形状や素材の変化を見せてきた。
消防で用いるヘルメットも、“災害”という敵から“消防士”という戦士を守るための“防具”であるといえる。
災害現場という場所は何が起こるかわからない。
突如、倒壊物が襲い掛かってきたり、足場が崩れて転落する可能性も大きいわけだ。頭部に大きなダメージが加われば命に関わる結果となり、脳に障害を与える危険もある。災害現場であれば頭を打って意識を失っている間に要救助者の生命は危険に曝され、隊員自身も更なる悲劇に見舞われないとも限らない。
つまり、消防におけるヘルメットとは隊員はもとより、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在であるといえる。ここでは世界の消防が使用する「消防ヘルメット」にスポットをあて、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。
SPRING 2018/FIRE RESCUE EMS vol.81