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2023.7.3

消防ヘルメット
消防ヘルメットコレクション 消防ヘルメットFIRE HELMET COLLECTION

【最終回】命の絆No.80 アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ市消防局 第23バタリオン下のエンジン46

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命の絆 消防ヘルメット

消防ヘルメットコレクションNo.80

THE BOND OF BROTHERHOOD
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。

時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が彼らを突き動かす。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。

「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。

 
命の絆No.80 アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ市消防局
第23バタリオン下のエンジン46
モーニング・プライド社 ベン・フランクリン・ローライダー2型
ファイバーグラス製ヘルメット

 
アメリカ中西部ミシガン湖南西の沿岸部にある巨大都市シカゴ。この地には過去長く続いた干ばつのために、同時期に複数の大火が発生したという歴史がある。まず挙げられるのは1871年10月8日の夜9時に起こった「シカゴ大火」。火災発生から2日後にようやく鎮火したものの、町中が焼き尽くされてり災面積は9平方キロメートルにも及び、死者300名に加え10万名もの住民たちが家屋を失った。ときを同じくしてシカゴの北方、ウィスコンシン州のペシュチゴの町と付近の12の村も大火災に見舞われ1,200名を超える死者が出たとのニュースがある。また北東のミシガン州ホランドの町周辺では「ミシガングレート火災」が発生し、さらにミシガン湖西北のヒューロン湖岸のポートヒューロン、アーバナ、イリハの町もすっかり焼けてしまった。それぞれの焼け跡を復興するために大量の木が伐採されたミシガン州シンガポールの森林が、回復不能な荒地になってしまったほどだ。その後、シカゴ市はレンガや石造りの建築物へと規制を強め、火災に強い都市づくりを進めていったのである。

1982年、人口流入で町は南や南西方向に拡がり、これに対応するためシカゴ市消防局は管轄地区を一つ増やして第6ディストリクトを加えた。2016年時点のスタッフ数は5,143名となっていた。今回紹介するヘルメットは第6ディストリクト第23バタリオン(大隊長)指揮下の第46エンジン・カンパニーに配属された第46ポンプ車隊員のものである。当初ポンプ車は放水量1000ガロン/分+500ガロン水槽付ワード・ラ・フランス社仕様だったが、現在はスパルタン・グラディエーター/ルヴァーン仕様のものを配備している。第46エンジン・カンパニーにはほかに第17トラック車隊、第9EMS地区の第9アンビュランス車隊、パラメディックフィールドチーフ車及びスペシャル大隊所属の化学泡/ドライケミカルユニット車の計5隊を配置しサウスシカゴにおける消防警備に就いていた。2023年現在はディストリクト数は第1から第5までに再編成され、第23バタリオン下の第46エンジン・カンパニーは第5ディストリクト所属となっている。ちなみに東隣の管轄はインディアナ州のイースト・シカゴ市消防局である。

紹介するモーニング・プライド社の「ベン・フランクリン・ローライダー2型」ヘルメットは、1990年代にケアンズ・アンド・ブラザー社のモデル880「センチュリー」から換装されたもので、ISOやNFPAの厳しい安全規格をパスしたより堅固なものである。アメリカ消防のトラディショナルな外観を保ちながらも柔軟性を感じさせる黒色シェルの材質はファイバーグラス製。正面にあるフロントピースシールドは盾型のレザー製で、上部に弓なりに「FIRE FIGHTER」と記されている。脱着式の中央部には方形に「ENGINE46」、下方には「CHICAGO」といずれも白地に黒文字で表記があり、三角形のホルダー(金属支持板)には赤いセント・フローリアヌス・クロスの中に「CHICAGO」と文字が入っている。支持板の上部にあるのは軟質の黒い防護カバーだ。顔面部にはボーク・アイ・セーフティ・シールドが装着されており、帽体のリブの間には台形の黄色い対光反射シール、後部には翻る星条旗シールも貼り付けられている。不燃処理されたイヤートラップは防寒対策も兼ねており、新素材繊維のあご紐はワンタッチで脱着可能、縁に防護ゴムを巡らせてある庇表面には、レザー製ヘルメット時代の名残で唐草模様が描かれている。帽体内は6本の新素材繊維で構成されたハンモックの中心にウレタンフォームのヘッドトップがあり、軟質プラスチックのライナーはクッション材で覆われている。内側には着装していた隊員の認識番号である「18299」という数字が見てとれる。なお重量は1,550グラムと非常に重い。

ヘルメットの名称「ベン・フランクリン」とはベンジャミン・フランクリンという人物名が由来である。彼は1736年にペンシルベニア州フィラデルフィアでボランティア30名とともに組織立った消防隊を誕生させた。ラッパやベルで住民に火災を知らせ、長い棒2本に皮革製バケツ6個を吊って火災現場へ走り消火活動を行う、消防隊の生みの親である。その後、保険会社と協定を結んで得た消火の褒賞金でボランティアの必要費をまかない、やがてはユニオン・ファイア・カンパニーという消火会社へと発展させていく。こうしてベンジャミン・フランクリンは消防人として、また発明家や政治家としても敬われ、ヘルメットの名称にもなったという次第である。

このヘルメットは2000年2月9日、シカゴ市消防局バタリオン・チーフのポール・マーティン(Paul Martin)氏から贈っていただいた貴重な品である。

PROLOGUE 災害現場で活動する隊員たちの姿で、ひときわ目を引く存在が「ヘルメット」である。
戦闘用の兜をルーツに持つヘルメットの目的は、衝撃から頭部を守り、直接的な負傷を防ぐことにあるが、国によりさまざまな特色を見せ、性能やそれにともなう形状、デザイン、用いられる素材は時代や環境とともに進化を遂げ続けている。消防で用いるヘルメットも、“災害”という敵から“消防士”という戦士を守るための“防具”であるといえる。

消防におけるヘルメットとは、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在である。災害現場では突如倒壊物が襲い掛かってきたり、足場の崩れ、転落の危険に晒される。もし頭を打ち意識を失えば、要救助者の生命は守れない。隊員自身もさらなる悲劇に見舞われないとも限らない。消防ヘルメット一つひとつにはストーリーが宿っている。世界の消防が使用した「ヘルメット」から、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。

―18年にわたり長い間ご愛読ありがとうございました。


夏季号 2023/FIRE RESCUE EMS vol.108


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