2018.7.2
FIRE REPORT #149 ラスベガス市消防局視察調査報告「銃乱射テロ等大規模殺傷事件への消防対応」
2017年10月1日午後10時すぎ(日本時間2日午後2時すぎ)、アメリカ西部ネバダ州ラスベガス中心部にあるホテルやカジノなどが入ったストリップ通り沿いにあるマンダレイベイホテルで、フルオートの機関銃とライフルなど複数の銃を使った銃撃事件があり、約59名が死亡、約527名が銃創や避難時に重軽傷を負った。
銃撃現場には数分以内にラスベガス市消防局の30台以上の消防車と108名の消防士、ラスベガス市警察局の警察官とスワットチーム、50台以上の救急車と100名を超す救急隊員が出動し、救命活動に当たった。
日本で銃撃テロが行われることは考えにくいが、今年4月13日に東京・府中市の建設会社の寮の一室から拳銃10丁と実弾200発以上が見つかった事件があり、暴力団や外国人犯罪組織、銃器薬物の密売グループなど、国内の治安に大きな影響を及ぼす組織犯罪が増え続けている日本の現状において、何らかのタイミングで一度に数百名の死傷者を出す規模のテロは起こる可能性がある。
もし、このような消防隊員にも身の危険が及ぶ大規模殺傷事件現場に出動する場合、先着隊になる消防は逃げ惑う群衆のなかをどうやって現場に駆けつけ、トリアージを行い、負傷者の救急対応を行うべきだろうか?
このたび、消防における大規模テロ対応の研究目的で、ラスベガス市消防局を取材した。
文・写真 サニーカミヤ
ラスベガスらしい、サイコロのデザイン。消防車が走ると振動で転がっているように見えるとか。
消防車のボディーは若手隊員によって指紋一つないほど磨かれている。また、積載資機材のメンテナンスも隅々まで行き届いており、油圧器具など傷はあるものの汚れはほとんどない状態だった。
ラスベガス市消防局本署のステーションツアーを快く引き受けてくれたキャスティロ氏。
マンダレイベイホテルの銃撃テロの前日、ラスベガス市消防局では関係機関と合同で大規模殺傷テロ対策の訓練を行っていたそうで、訓練の翌日に本当に起こるとは思わなかったそうだ。
実はパリの同時多発テロのときも、テロが起こった当日の午前中にパリ市の関係機関による同時多発テロ対策訓練が行われており、本当にテロが起こったとき、訓練参加者のほとんどは帰宅途中で、「誰か冗談を言っている」と信じて疑わなかったと聞いている。
銃撃テロ発生時、他のホテルでも同時多発テロが起こるかもしれないという指揮者の判断で、数台の消防車と救急車のみを出動させた。さらに犯人が自爆テロ等で火を放つことを予想し、マンダレイホテルの北西側の連結送水管近くの水利に待機させたそうだ。
また、待機していた消防隊員は全員、大規模殺傷事件用の対策キットと感染予防手袋とゴーグル、止血帯等の在庫すべてを車両に分散して詰め込み、現着後は、数百人の止血処置が優先されることを悟っていた。
オールエイド的救急バンデージ「SWAT-T」
何よりも他の止血・圧迫用具と「SWAT-T」の大きな違いは、子供やペットにも使えるという点で、一般市民向けの救命セットに適していると言えるかもしれない。
アメリカ全土の消防車や救急車にペット用の酸素マスクが積載されている。もちろん、ラスベガス市消防局でもペットの救急法トレーニングが毎年行われており、犬や猫が火災現場で一酸化炭素中毒になったときなど、飼い主が居ても居なくても助け出して救急処置し、必要があれば獣医師まで搬送手配している。
大規模殺傷テロ対策訓練メニューの内容をキャスティロ氏に尋ねてみたところ、自動小銃乱射等の銃撃による銃創、ナイフによる襲撃殺傷、さまざまなタイプの爆弾による爆傷、簡単に入手できる毒劇物や化学薬品による曝露対処、そして、歩行者天国やデモ等に車で突入するラミングアタックや航空機テロまで、すべてのテロ事態発生時の群衆管理やパニックコントロールから各外傷別の救急活動までをカリキュラムにしていると話していた。
アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁が示す消防組織人材構成モデルによって、米国国内の消防士の教育・知識、及びすべての消防技術基準が定められており、最低限のレベル評価を毎年パスしなければ、プロフェッショナルとして現職をキープできないほど厳しく組織管理されている。
消防士のがんリスク対策への取り組み
2012年にアメリカで、消防士のがん予防を研究するグループが、「世界の消防士のがん発生率は63%。発がんリスクの高い有毒なすす等を発生する塗料や素材が燃焼する火災現場で、現場活動中は空気呼吸器で有毒化学物質や生物学的病原体を直接吸わなくても、防火衣、ヘルメット、空気呼吸器、ホースや筒先、鳶口、ロープなどにも発がん物質と疑われるものが付着している場合がある」と発表した。
防火衣等の装備品に発がん物質と疑われるものが付着している場合がある。
現場活動終了後、帰署中の車内や帰署後の片付けの際に個人装備等の保管時に間接的に除染されていない有毒なすすを吸ってしまったり、経皮吸収していることでがんの発生率が高まるため、具体的にどのように個人装備や資機材に付着した発がん物質を除染するべきかの研究が始まった。
そのため、今年度からラスベガス市消防局では、消防士のがん予防プログラムの一つとして、防火衣専用の洗濯機が導入されるそうだ。
現場活動終了後、帰署前に火災防御活動で付着した防火衣の有毒な化学物質や有害なすすなどを十分に除染して脱衣し、専用の袋にまとめ、消防署で付着した物質に応じた洗剤や除去剤を使って洗浄する徹底した取り組みだ。
25ミリや40ミリの高圧放水シャワーセットは、放射能物質や化学物質、毒劇物に曝露した際の除染にも使われており、大げさな除染施設を組み立てる前に、1秒でも早く、次々と除染するシステムを積載している。
警察・警備におけるテロ対策への取り組み
ラスベガス市警察局のパトロール隊員は主にマウンテンバイクで市内をパトロールしている。パトロール用のマウンテンバイクには手錠、警棒、水、マスク、日焼け止め、救命セットを積載しているそうだ。胸板が厚いのは耐ナイフジャケットを着ているからだそうで、「ビールの飲み過ぎではないよ」と笑って答えてくれた。
ラスベガス市の条例で、警備員は現場に居合わせるファーストレスポンダーとなる可能性が高いため、毎年、最低40時間の事態救命訓練(止血処置、心肺蘇生法、搬送救助法)を行っている。
アメリカでは約70年前から、消防や警察だけでなく、警備会社、企業の自衛警備社員や自衛消防隊員、フリーランスの医者や看護師、産業医を含め、民間企業も連携して、本格的なテロ等事態救命訓練を行っている。
幅広い救急対応のために
ラスベガス市消防局を訪ねて感じたことは、日々、厳しい訓練と悲惨な災害現場に出動しているからこそ、心のゆとりというか、遊び心も必要だということ。
そして、今回の取材で、刃物による外傷、銃創、爆傷時の止血だけではなく、骨折処置、応急担架搬送時の患者の四肢の固定、さらには犯人の拘束など、幅広く救命救急処置の用途に使えるオールエイド的救急バンデージ「SWAT-T」を実際に手にとって、さまざまな使い方などを学ぶことができたのは大きな収穫だ。こうしたアイテムであればコンパクトで簡単に処置できるため、現場で使える人に感染予防手袋と一緒に配ることで、負傷者を待たせることなく、救命処置ができる。
大規模殺傷テロ対応は、救命処置のスピードが第一に求められる。現場に居合わせたファーストレスポンダーの協力を求めることで救命率は高くなる。
これから消防が秋葉原殺傷事件やオウム真理教による地下鉄サリン事件等の大規模なテロ事件に出動する際、同時多発的に何百人もの死傷者が出た場合の迅速な救急対応として、「SWAT-T」のような使用用途の幅広い救急資機材を備え、応用的なトレーニングに励むべきだと思う。
救助ポンプ車小隊長の赤いヘルメットには百戦錬磨の傷跡があった。
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チャレンジコインのサイズやデザイン、形状、スタイル、色使いはさまざまで、消防以外にも警察、沿岸警備隊、ライフガード、FBI、CIAなどの公的機関も作っている。使用目的も、消防博物館や消防署などで販売されているお土産等のギフト用から所属隊員のみに与えられる表彰用、市民による救命表彰用など、チャレンジコインを受け取った人の志気を高め、同じ意識を持つ仲間との友情を作り、良い行いへの動機付けをし、相互に刺激し、特別な機会を与えられた記念として活用されている。
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