2017.10.2
FIRE REPORT #143 熊本地震から一年半。揺れやまぬ余震のなかで
観測史上例のない「熊本地震」発生から、平成29年10月14日で1年半を迎える。
平成28年4月14日21時26分にマグニチュード6.5の前震が、28時間後の16日1時25分にはマグニチュード7.3の本震が発生し、熊本県益城町では震度7が“二度”観測された。
一連の地震活動において震度7が連続して観測されたのは、現在の気象庁震度階級が制定されてから初めてであり、本震は平成7年に発生した阪神・淡路大震災と同規模の大地震となった。
現地では今も損壊したままの住宅が残る一方、建物解体後の更地が目立ち始める。
大規模な土砂崩れにより崩落した「阿蘇大橋」は3年後の全線開通を目途に復旧工事が進み、やぐらや門など重要文化財に深刻な被害が出た「熊本城」は、これまで年間約170万人の観光客が訪れていたが完全な元の姿に戻るには20年以上かかるとされ、熊本地震復興のシンボルとなっている。
本震発生後益城町では、住宅全体の9割以上が地震被害を受け、過半数の5,507棟が全半壊、一部損壊は4,648棟、熊本市消防局の出場体制に大きく支障をきたすような被害はなかったものの、23消防庁舎のうち22消防庁舎に改修が必要となる被害を受けた。
益城町全体で平均1mも地殻が変動したことから、180カ所以上で地盤沈下・陥没・亀裂が発生、橋は19カ所で崩落・損壊。大型車両では越えることができない50?60cmの段差がいたるところで発生した。
熊本市消防局では前震発生直後に「消防局対策部」を対策部長(局長)以下761名体制(局85名)で設置、119番通報内の火災・救助・救急など人命に関わる災害対応について消防局対策部(消防局指令管制室)にて統制。
消防署では「熊本市消防局非常災害基本計画」に基づき各消防署単位で「地区隊」として部隊運用を実施。自主参集した非番員等の職員により部隊を追加編成した。
職員の参集率は前震・本震ともに2時間後には85%以上、4時間後には100%となり、6署676名体制で任務にあたった。
■緊急消防援助隊応援部隊数
○最大:20都府県、569隊、2,100名
九州7県(福岡・長崎・佐賀・大分・宮崎・鹿児島・沖縄)、
関西3府県(大阪・京都・兵庫)、
中国5県(広島・岡山・鳥取・島根・山口)、
四国4県(高知・徳島・愛媛・香川)、東京都
○航空隊:15都府県、18機
政令市ヘリ(東京・大阪・京都・岡山・広島2・福岡2)、
県防災ヘリ(長崎・宮崎・鹿児島・岡山・山口・鳥取・島根・香川・愛媛・高知)
「オール益城西原。少数でも力になれる。」
熊本市消防局 益城西原消防署
益城西原消防署は熊本市東部に隣接し、管内には「阿蘇くまもと空港」や「九州自動車道益城インター」があり交通の利便性が高く他県からのアクセスが良い。
全職員数は51名、隊員数はポンプ小隊8名、救急救助小隊10名、救急小隊8名、出張所ポンプ救急小隊10名で構成されている(※平成29年度 現在)。
近隣の消防署と比べると少数ではあるが「オール益城西原署」を掲げ、常にチームワークを心がけ活動している。
そんな同署を一連の熊本地震が襲った。
「突き上げられる縦揺れだった。地面が波打ち、地割れが閉じるのを目の当たりにした隊員もいた。輪止めを乗り越え救助工作車が3m移動するほどの凄まじいエネルギーだった」と警防課長の園田消防司令長は言う。
地震発生直後は飛び込んでくる災害対応や道路誘導にあたった。同署には指揮所ができ、県内応援隊や他機関(警察・自衛隊)到着後は地の利を活かした活動のサポートや捜索活動、余震の災害対応を行った。
「度重なる強い揺れで同時多発的に、倒壊した家屋からの救助事案が発生した。破壊器具が不足し、バール1本でも多くあればより迅速な救助活動ができた」
「道路や橋に50~60cm程度だが亀裂や段差ができ、車両が越えることができず急行に苦戦した。自前で応急的に車両が渡れる橋を架けることができればと感じた」
「余震が続くなか、倒壊の危険性がある建物内への侵入は、上部から縦方向でのアプローチを徹底した」
「本震の影響で訓練塔が大きく傾き解体となった。消防庁舎は二度の地震に耐えたが上下水道が破損し、飲料水やトイレが不自由となったため備蓄品の見直しを行った」。
これらは当時を振り返った“活断層型”地震での体験談だ。
地震後、同年6月19日から25日に発生した大雨被害により木山川堤防の一部損壊による逸水。熊本市消防局と連携し孤立家屋からの人命救出を行った。木山川は過去にも逸水被害があり、今回の活動からボートやライフジャケットの各署への配備の必要性を感じたという。
本震発生後、一週間のうちに熊本市では震度5以上の余震が19回以上発生。同年6月には集中豪雨での木山川堤防の一部損壊による浸水被害発生と、住み慣れた町での前例のない災害の連続に緊張感はしばらく続いた。
「熊本に住む私たちの誰もが『まさか』と思っていたことが現実となった。これからは一度経験したことにより『もしも』に意識をシフトして物事に対応しなければならない。日本列島は『地震大国』であることを再確認した」。
同署では“記憶から記録へ残す”取り組みのもと、資料や展示パネルを作成。「熊本地震での消防活動や経験を次世代に残し、意識付けを行っていきたい」と語ってくれた。
地震で生じた車庫と屋外の段差には折れ曲がったグレーチングを渡し車両を移動させた。
また、訓練棟は二度の震度7には耐え切れず解体となった。現在(※平成29年度 現在)は更地となっており「現状復帰」を待つ。
「全国からの支援で困難な消防活動を遂行できた。」
阿蘇広域行政事務組合消防本部
本震発生時、阿蘇広域行政事務組合消防本部管内でも最大震度6強を観測。
全職員を召集し災害活動に従事するとともに、緊急消防援助隊の応援要請を行い懸命の消防活動を実施。119番通報は通常の20倍近い入電があり、倒壊家屋や土砂崩落での救助事案が多発した。
とくに高野台での大規模土砂崩落、国道(阿蘇大橋など)崩落による土砂崩落では甚大な被害をもたらした。阿蘇大橋の崩落に巻き込まれた救助事案では、斜面の崩落危険のため活動制限が強いられ、8月にまで活動が及んだがすべての要救助者を救出することができた。
熊本地震に関する救助件数は29件、救助人員は70名。総務課長の桐原消防司令長は「当消防本部からも緊急消防援助隊の応援要請を行いました。全国からの支援により自消防本部では困難であった消防活動を遂行することができました。本当にありがとうございました」と感謝を述べた。
阿蘇広域行政事務組合消防本部は、九州のほぼ中央、熊本県の北東部に位置し、古代から火山活動を続ける阿蘇中岳を有している。
阿蘇カルデラ地帯を中心に標高差の著しい特殊な地形条件と広大な面積のなか、平坦部の集落だけではなく山間地にも小規模集落が点在しており、実に約73%が山岳地帯という自然条件の厳しい地域である。
刻一刻と変化する自然が相手となるため、的確な判断と明確な指示により、安全・的確・迅速な現場活動につなげている。
また、現場において隊員が常に考えを抽出し活動できるように普段からの訓練を心がける。
阿蘇広域行政事務組合消防本部の火山噴火災害特殊避難車。火山灰除去用のウオッシャータンクと防石用の金網を備え、山岳救助など未舗装道路での人員輸送を行う。
現在(※平成29年度 現在)管内人口は約6万人、世帯数は約25,000世帯、職員数は123名、署所体制は1署2分署2分駐所。熊本地震発生当時は、多数の119番対応、災害の優先順位付けや災害情報の整理、管理に苦慮したという。
一時は活動隊員や外部派遣の職員、資機材などが不足する限られた状況下、召集職員で編成された隊とも連携しながら活動を行った。
その後、緊急消防援助隊を要請し、活動が開始されてからは受援に徹したため、負担が軽減でき長期化する災害活動に対応できた。熊本地震では余震及び土砂崩落による家屋倒壊が多く発生したことから「現場活動の検証会を開催し、現場評価を行う指揮者等の育成強化の必要性を感じる。車両での進入が困難であった場所での活動、倒壊家屋での救助、土砂災害活動についても検討・強化を継続していく」とのこと。
その一環として同消防本部は平成29年度に『ドローン』を導入し、災害時の活用を開始する予定だ。
(下部写真は熊本地震以前の山岳救助訓練の様子)
「地震がきっかけで消防士になることを決意した。」
熊本県消防学校
熊本県消防学校は熊本地震で最大震度7を二度も記録した益城町に立地し、本館や寄宿舎(寮)、地上10階の訓練塔、車庫、プール等を備えた消防教育施設である。
県内自治体で新たに採用された消防職員に対する初任科教育のほか、救急科や救助科などの専科、幹部教育を各消防本部等と連携しながら行い、地域住民の信頼に応えられる消防人の育成を担う。
また、地域防災の要である消防団員教育、公立学校教員への初任者研修、一般県民に対する消防教育を通じて県内防災力の充実強化をはかっている。
校訓は「職責の自覚」「人間性の涵養」「規律の厳正と団結」。
熊本地震では校内複数の施設が大きな被害を受けるも、各地から集まる緊急消防援助隊の宿営地として機能。職員は各隊への案内や車両整理をはじめとする受援業務に奔走した。
ともに最大震度7の前震と本震により、消防学校の施設も大きな被害を受けた。救急棟の階段は前震でクラックが入り、本震とその後続いた余震の影響で大きく傾く。現在(※平成29年度 現在)は救急棟以外にも屋内訓練場、武道場の計3施設が立ち入り禁止となっている。屋内訓練場の天井は前震で一部が、本震ですべてが落下。以降、雨天や夜間の訓練は代替として車庫で実施している。左下の写真は落下して壊れた武道場の時計で、針は今も本震発生時刻を指す。
平成29年度の初任科第62期は64名(うち女性2名)が入校。4月11日から9月22日まで5カ月強の教育期間で消防士としての基礎となる知識、技術、体力、そしてメンタルを養う。今年度は各教科の時間数の見直しを行い、災害現場における安全管理、惨事ストレス対策、即戦力として活動できる実科訓練、そして国家資格取得などを重要な課題として位置付けた。
指導する教官陣。前列向かって一番右の佐藤教務課長は初任科学生について「いつ起こるか分からない災害から地域を守る気持ちを強くもち、自ら考えて行動できる消防士をめざして欲しい」と語る。
熊本市消防局/熊本市中央区大江3丁目1-3
益城西原消防署/上益城郡益城町大字寺迫202-1
阿蘇広域行政事務組合消防本部/阿蘇市黒川1423-1
熊本県消防学校/上益城郡益城町惣領2167
AUTUMN 2017/FIRE RESCUE EMS vol.79