公開日 2026.4.6 / 更新日 2026.4.13
【第25回 訓練棟症候群〜その想定、現場につながっていますか?】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜
各機関における救助訓練は、どうしても敷地内の訓練棟で行われることが多くなります。それ自体が悪いことではないのですが、意識していないと訓練内容や構築される技術が「訓練のための訓練」「訓練棟を想定した技術」になっていってしまいます。これらは場合によっては非常に不安全な行動を招くこともあります。
そういった、自覚のないまま身についてしまうネガティヴな所作や技術のことを、とある方が「訓練棟症候群」と表現していました。今回は、何回かに分けて、これに該当しそうな「症例」を紹介してみたいと思います。
金属パイプを強い支持物と思いがち問題
皆さんにまずお伝えしたいのが、この問題です。確かに訓練棟にはめちゃくちゃ強固な金属パイプが、支点用として据え付けられています。ところが、訓練棟の外で目にする金属パイプは強くはありません。支点用パイプの感覚で使用すると大変なことになってしまいます。
が、外部での訓練を行なっているとヒヤリとする場面に何度も出くわします。

実際の建物にこのようなパイプはありませんし、あったとしてもそれに強度はありません
以下、私が実際に見た事例です。
- 公共施設の国旗掲揚柱でハイライン展張
- 体育館のバレーボールネット支柱で斜めブリッジ展張
- 公園内の街灯を支点に(ちょっと傾いた)
- エアコンの配管で自己確保
- 屋上に載っているだけの手すりで自己確保
設計者も施工者・製造者も、まさかそんなことをすると思っていませんから、こういった目的外の強度は期待できません。
また、強固な支持物に慣れきってしまっているがゆえに、「メインとビレイは別々の支持物からとる」という基本原則(法令上の規定)をスルーし、1点にすべて預けていることが多々あります。これの不徹底により2024年には訓練中に取り返しのつかない事故も発生しています。
この問題の原因は、支点作成についての訓練や教養の不足です。基本原則や法令の軽視もあります。訓練棟の親切な支点パイプは、普段の訓練をかなり時短してくれています。その分、しっかり別に時間をとって、さまざまな支持物(建物や構造物)について学習したり教養する時間を設けなければなりません。
そういった知識は、予防業務や震災救助、建物事故や火災の活動にもリンクする内容ですし、ぜひロープだけの話と思わずに知見を広めてください。
ロープにおもり?
チェストアッセンダーを用い、PETZLのASAPをバックアップに行われる降下・登はんは現在の救助隊員にとって基礎技術といって差し支えないでしょう。とくにこの5年くらい、競技大会の影響もあって、ロープの早登りは定番訓練の一つになっています。
一方で訓練を見ていると、まずバックアップロープの下端に「おもり」を吊り下げてから活動を始める人たちをたくさん見かけます。これは、登はん時にASAPがロープを持ち上げてしまうので、流れを良くするための措置です。しかし、これを実際の現場でもやるのでしょうか?実際の現場ではやらないのであれば、ロープを食おうとするASAPを手早く処理する練習こそ重要ではないでしょうか?

トップチームのレスキュアーはASAPにもロープロケットにも「おもり」を必要としていません
なぜこの指摘をしたかというと、さまざまな地域と機会で想定訓練をみるなかで、散々訓練してきたはずの登はんがままならないシーンを頻繁に見かけるからです。おそらく、普段の「おもり」がある環境に慣れきってしまっているのだと思います。
また、時間を割いて「おもり」をつけたものの、ロープの伸びで「おもり」が着地してしまい、役に立たないケース。ロープを回収する際に、その「おもり」にしていた資器材を落下させたり、根掛かりして時間を浪費したりするケースも見かけました。
実際の現場どうこうの前に、競技でもマイナスの影響が出てしまっているように感じます。ぜひ、初心に立ち返って「2回登ったらASAP上げる!」を再訓練してみませんか?
ロープロケット依存症
前述の登はんをさらに速くするアイテムとして、ロープロケット(ニーアッセンダー)というのがあります。Instagramなどでシャコシャコ軽快に登っていく姿を見られた方も多いかと思います。いまや、ロープレスキューに関わる若い隊員のマストアイテムともいえる資器材ですね。皆さんのように体を鍛えていない、僕のようなオッサンにもマストアイテムです。
ところが、こういった資器材を使っているのに全然、活動自体は「早く」ないシーンが目についてしまいます。いったいなぜでしょうか?
想定訓練では単なる登りっぱなしではなく、登り降りの切り替えが必要な場面や、自分の位置に微修正が必要な場面なども多いからです。そういった場面ではロープロケットはむしろ活動の邪魔になることがあります。また、短距離を登るだけ、複数名が登らないといけない(順番待ちしている)とき、登った先が入り込みにくい開口部だったときなど、ロープロケットの着・脱の時間が、登はん速度を上回ってしまう人もいます。結局、アイディで必死に登っている初心者に追い越されてしまう、悲しい場面も…
いうまでもなく、どんな資器材も万能ではなく、ユーザーによって使い分けが重要です。訓練棟の垂直の壁、飛び込める大きな開口部であれば無敵かもしれませんが、そういう環境はそう多くはありません。地味な基本技術は通過地点ではなく、重要なツールです。身体と頭が忘れないように、ぜひ継続して訓練してみてください。
皆さん、いかがでしたか?今回は初中級者が陥りやすい、個人技術に関する症状をご紹介しました。次回は、部隊やチームで活動する際の想定で起きる症状について、ご紹介したいと思います。
大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、山岳部などの経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令を踏まえつつ消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」
office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm〜11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠しつつ、現場に即した技術を重視。高所作業や競技の技術ではなく、消防活動におけるベストを提案する講習。レベル1〜2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。
お問い合わせ090-3989-8502
ホームページhttps://r2roperescueropeacce.wixsite.com/office-r2
































